好きってきっと、こういうこと。
「わ、渡辺?」
「あ?」
「どうしたの?眉間にシワが寄ってるよ?」
「そんなん気にしないから」
「いやいや!あたしはどうして渡辺がそんなに機嫌が悪くなってるのかが知りたいんだって!」
ブラックな渡辺にならないように必死になだめていると、タイミングよくシードルと赤ワインが運ばれてきた。
店員さんがあまりにも空気が読めることに驚きながら、あたしはグラスを渡辺に向かって突き出す。
「渡辺、乾杯しよ」
「そうだ、乾杯するか。それじゃ、内海の身長が伸びますように、乾杯!」
「って、なんでそのことに乾杯するの!あたしもう中学生から伸びてないから伸びる見込み薄いんですけど!」
「ごちゃごちゃ言うな。はい乾杯」
そう言って無理矢理グラスを合わせてくる渡辺にムッとしながらも、シードルを一口味わう。
ほのかに炭酸が効いているりんごのワインは、疲れている身体に染み渡って心地がいい。金曜日まで仕事頑張ってよかったなって心の底から思った。
「あー!おいしい!」
「それはよかった。内海なら喜んでくれると思ってた。連れてきたかいがあった」
シードルが入っているグラスを口に付けていたら、そうやって喜ぶ渡辺の姿を目の当たりにして、何故か心臓がドクドクとうるさく鳴り始める。
あれ?なんでこんなに鼓動が大きく聞こえるんだろう。
久々にアルコールを体内に取り込んだからなのかな?