好きってきっと、こういうこと。
そんな自分の体内の異変に気付かないフリをして、あたしは渡辺に視線を送る。
今ならきっと、聞ける気がする。だってあたし達は、今まで仲良くやって来た同期なんだから。
「ねぇ、渡辺」
「何?」
「何で今日、途中から機嫌が悪くなったの?あたし、何かした?」
そして再び険しくなる渡辺の表情。やっぱり眉間にシワが寄っている。渡辺が機嫌を悪くしていたのはやっぱりあたしのせいだったんだ。
それなら謝らないと、ともう一度渡辺に向き合おうとした瞬間、何故か険しかったはずの渡辺の表情が困ったような表情へと変化していた。
え?こんな困った顔の渡辺、あたし一度も見たことがない。
どうしたの?と聞く暇もないまま、渡辺の手はあたしの目元に移動していた。
「泣くなよ」
「え?」
「お前、涙流してることに気が付いてねぇの?」
うん。正直気が付かなかった。
だから困った顔をした渡辺が目元に手を当てて、涙を拭いてくれたんだね。
案外優しいところあるじゃん。
「あたし、なんで泣いてるか分からない」
「情緒不安定かよ」
「そうかも」
少しだけあたしの泣き顔を見て慌て始めた渡辺を見て、何故か嬉しくなったあたしはカバンからハンカチを取り出してメイクが崩れないように拭きながら、ばれないように微笑んだ。