好きってきっと、こういうこと。
そう必死にアピールするのに、渡辺はあたしからグラスと赤ワインのボトルを取り合げてしまった。
その代わりに事前に店員さんに注文していたと思われる水をあたしの前に置いた。いつの間に頼んでたんだろう。
動きがスマートすぎて渡辺ってすごいなあ、とふわふわしている脳みそをフルに使って関心してしまう。
「本当にお前酔っぱらってるからこれくらいにしとけよ」
「え?いやー!渡辺とまだ飲むのー!」
「本当に勘弁してくれよ、俺の気持ちも考えろよ」
「俺の気持ちってなにー?渡辺悩んでることがあるの?」
自分では意識がちゃんとあるはずなのに、気付けば身体中が鉛のように重くなって、カウンターにうつ伏している状態になっていた。
背中には何か温かい感覚があって……とても安心する。
ゆっくりと目を閉じると、あたしの記憶は遥か遠くに飛ばれされてしまった。
「はぁ……。まったく、お前の行動に振り回される俺の気持ちにもなってみろよ。普通に自分のスプーン使って人に食べ物を食べさせるんじゃねぇよ。……期待してしまうだろ。
それに、あの新人に名前で呼ばれやがって。俺だってまだ名字呼びなのに、軽々しくガードを緩めるなよ。
……お前には絶対に教えないからな。俺が機嫌が悪かった理由。確かに塚田課長に指摘されたことも一理あるけど、本当の理由は。
お前と新人が必要以上に接近するのが嫌だったっていう、みっともない嫉妬ってこと」
どこからか渡辺のような呟き声が聞こえたけど、記憶に残ることがなくバー内に流れる音楽にかき消されていた。