好きってきっと、こういうこと。
そんなあたしと違って、入社3年目にして営業はもちろん、数々のプロジェクトを成功させているのは、目の前にいる同期・渡辺慎吾。
短い黒髪を目立たない程度にワックスで波立たせている。そのセットの仕方にも好感が持てる。スーツもビシッと着こなし、とてもあたしと同期だとは思えないほど。
そんな渡辺とあたしは同じ部署に配属され、今日みたいに一緒に営業まわりをすることが多くなった。
同期の渡辺が、なぜかあたしの教育係として、だけど。
「ま、せいぜい今日入社してくる後輩に追い抜かされないようにしろよ。そうしたらもう俺もフォロー出来ないわ」
「分かってるよ……。いっそのことなら他の部署に配置換えしてくれてもいいのに……」
「それは課長がお前のことまだ見捨ててないから、こうやって営業に残してもらえてるんだろ。甘えんなよ」
渡辺の言っていることはもちろん分かる。
こんなに仕事出来ないあたしをまだ営業に残してもらえているのは、あたしをまだ見捨てていないってこと。
だからあたしは、この目の前に座っている男に追いつくために、日々頑張るしかないんだ。
「よし、そろそろ外まわり再開するぞ。ここは俺が払うから、早く準備しろ」
「え、でも……」
あたしは残っていたコーヒーを一気に飲み干し、渡辺を見つめるけど。
「お前はいまから結果を残すことだけ考えろ。グダグダ言わずに着いてこい、チビ」
「ち、チビじゃないから!待ってよ!!」
そうして今日も、厳しいのか優しいのか分からない同期と共に、あたしの3年目の戦いが始まるんだ。