好きってきっと、こういうこと。

騒がしいオフィスの空気を裂くように、塚田課長の大声があたりに響き渡る。


「みんな立ってくれ。今日からこの第一営業担当の仲間になることになった、新入社員の相村くんだ。さ、簡単に挨拶をどうぞ」


相村くんと紹介されたその人は、営業にピッタリな爽やかな笑顔を浮かべると、しっかりとした声で挨拶を始めた。


「本日から第一営業担当でお世話になることになりました、相村大輔です。営業担当ということで緊張していますが、精一杯頑張りますのでよろしくお願いします」


一礼すると、オフィス中から拍手が巻き起こる。

あたしもみんなの拍手の音に被せるように手を叩いた。


「今日もお客様の信頼を第一にみんな頑張ってくれ。今日の朝礼は以上だ」


塚田課長の締めの言葉を聞いたあたしは、再びデスクに戻って今日の外回りの準備に取り組んだ。

少しだけ渡辺のほうを見ると、今から出発するみたいだ。


「渡辺、今日飲みに行くのって会社に集合でいいの?」

「ああ、大丈夫だ。内海こそヘマして定時に間に合いませんっていうオチやめろよ」

「な……!ちゃんとやるから大丈夫だもん!」


ついついいつものように渡辺に反抗していると、背後に何やら気配を感じた。振り向くとそこには塚田課長と新入社員の相村くんがいた。

珍しい客に、あたしはもちろん隣の渡辺も驚いた表情をしてこちらを伺っている。


「内海さん、今日って確か新規契約ばかりだったよね?」

「は、はい」

「それ悪いけど全部渡辺くんに振ってくれない?」

「分かりまし……って、え?」

「あと今後は、なるべく担当しているクライアント以外の仕事は誰かに振ってほしいんだ」


ど、どういうこと?

ニコニコ課長の言いたいことが理解できずに固まってしまった。

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