好きってきっと、こういうこと。

渡辺、調子が悪いのかなあ?

見たことない渡辺の姿に戸惑っていると、塚田課長が面白そうにオフィスの扉の方を見つめていた。


「アイツもアイツで、素直になればいいのにねえ……」

「塚田課長?」

「ああ、悪い。あまりにも渡辺くんが可愛くてね。ちょっと意地悪しただけだから気にしないで」

「はあ……」


塚田課長の言っていることは分からないけど、とりあえずあたしは渡辺のことは忘れて仕事に集中することにした。


「渡辺くんのことで話が逸れたけど、やっぱり内海さんも色々な経験を積んだほうがいいと思うから、教育係引き受けてくれないかな?」

「でも、あたしでは役不足な気が……。やっぱり渡辺のほうが適役では」

「そんなことないよ。内海さんも自信持って仕事してくれないと。うちの大切な戦力なんだからさ。それに押し付けるわけじゃないから。困ったら気軽に相談してくれていいし」


その一言に、少し前までの弱気で後ろ向きな考えのあたしが変わった気がした。

仕事ってひとりでやるものじゃない。みんなでやるもの。

半人前のあたしは今まで渡辺や塚田課長に助けてもらっていたけど、あたしも他の誰かの力になれるのなら。


「……塚田課長、自信ないですけどやっぱりやります。やらせてください」

「そうこないとね、内海さん」


自分の弱い殻を破るチャンスを、塚田課長がくれたんだ。

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