好きってきっと、こういうこと。

相村くんの教育係を引き受けたあたしは、まずは彼が仕事に打ち込める環境から作ることに。

ちょうどあたしの左隣の席が空いていたため、相村くんのデスクとして利用することにした。

彼にパソコンのセットアップをしてもらっている間、あたしはこの担当が行っている業務内容のマニュアル集めやこれからしなきゃいけないことをまとめる。


この会社のおおまかな業務内容は入社式やその後のオリエンテーションで聞いていると思うから、まずはこの担当の詳しい業務内容を教えてあげないと。

それに、まだ資料室の存在も知らないだろうから、あとで連れて行ってあげるとして……。


「内海さん、質問というかお願い、聞いてもらってもいいですか?」

「うん。なにかあった?」

「内海さんの下の名前、教えてください」


目線はパソコンに向いているけれど、相村くんはきっと早くこの担当に慣れるために、教育係であるあたしのフルネームを知りたいってことなのかなあ?すごく勉強熱心だ。

そんな新入社員の未来をあたしが握っているってことが少し怖くなるけど、しっかりしないと。


「ごめんなさい。改めて自己紹介するね。あたしは内海はなです。入社3年目で年も近いと思うからよろしくね」

「はなさん、ですか。素敵な名前ですね」

「そんな、お世辞ありがとう」


普段男の人に褒められることなんてない。あたしと距離が近い人って、渡辺や塚田課長くらいしかいないし。

だからなんか、すごい新鮮。


「お世辞なんかじゃないですよ。本当に女性らしくて素敵です。だからはなさんって呼んでいいですか?」

「うん、どうぞ」


新鮮で恥ずかしくて、あたしは一言を発するので精一杯だった。

相村くん、女性慣れしてそうだけど。

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