君を好きな理由
「……すみません。水瀬さん」

「いいえ。特に問題はないですから」

「思ったよりも早くに、見つかったものだのぅ」

子供のように唇を尖らせる顧問に冷静な視線を返して、葛西さんがメガネを直す。

「解った。解ったから。お前は昔から頑固でいかん。少しからかっただけじゃろうが」

「からかわないで差し上げてください。とりあえず……仕事中は水瀬さんに迷惑です」

あれ。いつのまに私の話になったの?

顧問と葛西さんの間では通じて……

「え。私は今、顧問にからかわれていたの?」

顧問はからかいに来ていたの?

本当に就業中も何もない親族なんだな!

まあ、顧問はどちらかと言えば閑職に近いんだろうけれど、大丈夫かしら、この会社。

「仕方がない……失礼するかね。またのぅ。水瀬さん」

ヒラヒラ手を振って出ていく顧問と、一礼して礼儀正しくドアをそっと閉める葛西さん。


……あの人たちをどうにかしてくれ。


全くもって……ある意味で忙しい。

頭の中がピンクなんじゃないの?

もしくはお花畑で蝶々がヒラヒラしていない?

全く現実をどういう風に思っているわけなのよ。



現実は……そんなに甘くないわよ、お坊ちゃん。

どんな生活をして、どんな風に育って来たのかは知らないけれど、世の中はそんなに都合良く出来ている訳じゃない。

だいたい、葛西さんは最初、私を嫌っていたと思うんだけど。

最初に話をしてからも、毎回顧問の定期検診に付き添って来ていたから、会話を交わすようにはなっていた。

印象は慇懃無礼。

それが彼の印象で、それが彼だと思っていた。

まぁ、坊っちゃんは嫌いなので、こっちも嫌味を言ったりしていたけど。

社長の息子なんて言われたくなければ、別の会社を選べばいい。
自分の親の会社を選んだのは自分でしょうに、それを嫌って見えたから。

そこをつついたら。めちゃくちゃ冷たく冷静に返されたけど。

ハンカチもずっと返してくれないし……と、思っていたら、実は私だと気づかれてなかっただけで、しかもイキナリつきあってくださいとか言われて。


何を考えているのか、まったく先が読めない。

……葛西さんは、全然読ませてくれないし、突飛すぎてついていけなくなる時が多いと言うか。
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