君を好きな理由
そうして和やかなうちに披露宴も終わり、皆最寄りの交通機関へ流れていく。

「二次会行きましょー! 二次会!」

比較的新郎新婦に近い年代の面子が集まって、そんなことを言い始めた。

「二次会? 行かなきゃダメ?」

山本さんがそう言って、皆失笑。

「え。それって新郎の言葉です?」

「子連れのカメラマンには言われたくないよ」

「カメラマンではないです。写真家ですから!」


そーんなやり取りの後、皆で移動する事になった。


「賑やかね」

「……伊原さんも行くみたいですが、大丈夫なのでしょうか?」

見ると一団の中に、磯村さんに手を繋がれた華子を見つける。

キリッとした顔だなぁ。

……あれは『お仕事モード』に突入しているのかしら、こんなところで珍しい。


「磯村さんいるし、大丈夫じゃないかしら? 端に座らせて、磯村さんでガードしておけば平気でしょ」

磯村さんは相変わらず荒療治を華子に課すから。

そうしているうちに、博哉が呼ばれて離れていき、私は私で団体の最後尾をたらたら歩く。

時間的にはまだ15時をまわった所、明るい時間帯なのに、皆でほろ酔い気分になっているわよね。


……夏は近いなぁ。


もう、来月は海開きだものね。


「…………」


微かにジリジリ太陽の下で、黒いドレスワンピは暑かったかしら。

いつものバックなら日傘も入っているんだけどな。

そんなとりとめもないことを考えていたら、バックの中で微かに着メロ音。


誰だろう?


そう思いながら、画面を見て顔をしかめる。


また登録のない携帯ナンバー。

いつか……どこかで見たことがある番号。

出た方がいいのか、悪いのか。


考えた末にスライドした。


「もしもし?」

通話中のスマホに声をかけると、しばらく無言。

イタ電ですか?

全く暇な人間がいるな!


切ろうとしたら、微かに声が聞こえた。


『久し振り……』


どこかで聞いたことがある声、どこだったか……


思い当たった瞬間、腕を捕まれて、路地裏に引っ張りこまれた。
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