君を好きな理由
そのまま歩いていたら、博哉がポツリと呟いた。

「……なんて所で、なんて人に引っ掛かっているんですか」

「うん。ごめん」

「いえ。好きで引っ掛かった訳ではないのは解ります」

そう言いながら腕が赤くなっている部分を見つけて、手の甲でそっと優しく触れる。


「……ごめん」

「いえ。遅くなってすみません」

「や。その……色々とごめん」

「はるかが謝る事ではありません」

「でも」

「こちらこそ申し訳無い」


え?

どうして博哉が謝るの?


「男らしく叩きのめす事も出来たでしょうが、叩きのめしたら叩きのめしたで、ああ言う手合いは裁判沙汰にするのが好きなので」

あー……

それは想像もしてなかった。

「……少し、見てみたかったかも」

「そうですか? でしたら今から」

戻りかける博哉を慌てて止める。

「今から行ったら、何で殴られるのか意味不明でしょうが! ギャグになるわよ、ギャグに!」

「大丈夫です。洒落にならないくらいにしますから」

いや。それはどうなの?

でも、目がマジだ。

真面目に不真面目な男の取り扱いは要注意だ。

えぇー……と。


「目の前に怪我人がいたら、私が手当てすることになるわよ!」

「それは嫌です」

「怪我人は放っておけないわよ?」

「……仕方ないですね」

本当に残念そうな顔。

いや、もう。その前に諦めましょうよ。

まったくもう。

まったく……


笑える。


「笑い事じゃありませんよ」

「ええ。まぁ……」

そうなんだけど。

笑っちゃうわよ。

何だかもう、色々とありすぎてさ。

「何か……ありがとう」

「ありがとう?」

「思ったけど私、他人に守ってもらうのは初めてだわ」

「他人のつもりはありませんし」

「……ありがとう。抱きしめてもいい?」

唐突に言うと、眼鏡の奥の目が丸くなって、それから嬉しそうに微笑んだ。

「道端ですが?」

「いいわよ」

「人目もありますが?」

「いいじゃない 」

「では、どうぞ」

そう言って、両手を広げる博哉の腕の中に飛び込んだ。
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