君を好きな理由
そして業務が終わり、肩をほぐしながら社員入口に向かうと……

「お待ちしてました」

「…………」

微かに微笑みを浮かべる葛西さん。
その後ろには困った顔の華子と山本さん。
そして当たり前の様に磯村さん。

え。なんだろう。
私は何か約束したかしら。

していないと思うんだけど、どうなのかな?

「断られませんでしたので」

あれ。断らなかった?
いや。断った気もするんだけれど……

「……真面目な顔をして何を勝手なことを言っているの。言ったような気もするけど、押しが強すぎる男は嫌われるわよ?」

「……嫌いでは、無いでしょう?」

「嫌いだったらどうするの?」

「本気で嫌いなのならば、貴女はハッキリそうおっしゃる」

葛西さんは微かに微笑みを浮かべたまま、ひょいと人のバックを持って歩き出した。

「え。あの────……」

「女医さん諦めて飲みに行こうぜ? 二人きりじゃなきゃまだいいだろ」

磯村さんを睨んで、困った顔の華子と山本さんを見比べる。

「我関せずじゃないわけ?」

「俺らも拉致られたんだよ」

「案外、人がいいわよね。磯村さんって」

「人がいいかは解らねぇ。けど、あれとは付き合い長いしな」

……そうねぇ。
付き合いが長いと色々とあるわよね。
男の人の友情は、解らないことだらけなんだけど。

「山本さんは、いいの?」

山本さんは頭をかきながらも笑顔。

「良いって言うか。誘いが急すぎるって彩菜に怒られたよー」

彩菜ちゃんは山本さんの幼馴染みの女の子。

一度だけしか会ったことは無いけれど、とても素直に山本さんをキラキラ見ていたから、からかった記憶もある。

「あ。彩菜ちゃん来るの?」

「うん。まぁ、どうせ今日は外食しようって約束してたから」

「ちなみに付き合い始めた?」

「ああ……まぁ……」

山本さんって、いつもニコニコしてるけど、葛西さんとは違った意味で何を考えているのか解らない。

「6月に籍を入れる予定」

「え。本当に? でもあの時は付き合ってもいなかったわよね?」

「誰かに取られでもしたら嫌だし。まわりもかなりうるさいし。何より彩菜がたまに半信半疑に陥るし。ハッキリ形にしておこうかと思って」

とても爽やかな笑顔で言われたけれど、少し引いた。

もしかして、山本さんて笑顔で犯罪者になれそうなタイプじゃない?

めちゃめちゃ独占欲丸出しの発言よね?

「ああ、水瀬さんも気を付けた方がいいかな。あいつ冷たそうで実は違うから」

指を指した方向に、葛西さんが黙って立っていた。

表情は普段通りの無表情だけど、口許が微かにへの字。

……要するには子供だと思うのだけれど。
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