君を好きな理由
お化粧が取れちゃうかもしれないけれど、今はもう“この際”だから。

博哉に抱きついてみると、微かにオーデコロンの匂いがした。

さっぱりしているけれどどこか甘い。
彼の匂いを思いきり吸い込む。

吸い込んで、背中に落ち着いた博哉の手のひらの暖かさに安心する。


博哉って、私をよく心配するわよね。


ご飯食べなかったり、寝るのが遅くなると、眼鏡をキラリとさせて怒られるし。

たまに……本当にたまーに、うるさいなとは思うけど、それもどこか嬉しかったりする。



「……あんなでも、昔は私に優しかったのよ?」

ポツリと呟くと、博哉がピクリと動いた。

「人は変わりますから……」

「……そうね。そうだと思う」


華子が磯村さんに出会って、変わったように。


幼馴染みと断言していた彩菜ちゃんが、山本さんのお嫁さんになったように。


「博哉も変わる?」

「変わらないとは言えませんね」

「馬鹿ね。こういう時は、俺は変わりませんとか言えば良いでしょ」

「現に変わりましたし」

変わった?

変わったのかなぁ?

見上げると、苦笑が返ってきた。

「愛想笑いばかりの口の悪い医者が、今は可愛くて仕方ないとか……重症でしょう?」


うん。


「…………それは重症ね」

「介抱してくれますか?」

「どんな期待してんのよ」

「そうですねー……」

「お前ら、さすがに俺でもこんな往来でそんなことしねーぞ?」

呆れた声に振り返ると、疲れた顔の磯村さんがいて、その隣にはキリッとした華子と……何故か宇津木さんがいた。


「バックがあまりよくないですが、バッチリです!」

何がですか?

「あ。下さい」

博哉が顔を上げ、宇津木さんはオーケーマークを指で作る。

「現像したら送りますね。山さん経由でいいですか?」


あ。写真。


「駄目に決まってます!」

騒いだ瞬間、博哉が吹き出した。

まったくさぁ。

お願いしますよ。色々と……














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