君を好きな理由
夏の夜空と男心?
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季節はすっかり夏になった。

気温は高いし、風は温いし、汗はかくし、髪はうざったいしで夏は苦手だ。

「あー……坊主にしたい」

呟いたら、

「え。それはやめましょうよ」

博哉にとても悲しそうな顔をされた。

なんのかんのと言いつつ、お付き合いは続いている。

博哉が我慢強いのか、私も突拍子もない彼に慣れたのか、たまに口喧嘩はするけれど大喧嘩までは発展しない。

お互い忙しくなったりして、延び延びになっていたけれど、今日はやっと約束の立ち呑み屋に来た。

「なぁに、髪が長い方が好み?」

「短くても似合うと思いますが、坊主はやめましょう、坊主は」

「まぁ、毎年言ってるだけなんだけどね」

言いつつ、お品書きを手渡す。

「ああ。種類が豊富ですね」

「地酒も多いし、焼酎も多いんだー」

一緒に覗き込みながらカウンター席にもたれる。

「今日は芋ですか?」

「今日は麦にするかなぁ」


それぞれ注文して乾杯した。


「ほんっと、熱帯夜が続くわねー。脱水症状起こさないでよ?」

クピクピ飲みながら苦笑して言うと、博哉もネクタイを外しながら頷く。

「忙しいみたいですね?」

「まぁね。熱中症がちょこまか増えているから、冷蔵庫申請したいなぁ」

「冷蔵庫?」

「冷たすぎるのは問題だけど、温すぎる水分補給飲料も可哀想だし」

「……この間、冷凍庫からアイスクリームをだしてましたよね?」

ちらっと見られて小さく笑う。

「それは秘密にしておいて?」

「いいですけど。冷蔵庫もいりますか?」

「まぁ、時期的にはね。熱中症対策に“しっかり緑茶を飲んでました”とか言われても困るし。それなりに対応しないと」

「緑茶ではダメですか?」

「お茶が全てダメとは言わないけど、カフェイン入りの水分じゃ利尿作用強いし。そういう意味合いではお酒も水分摂取にならない。飲んで出ちゃったら意味がないし」

「ああ。ビールはトイレが近いですよね」

「そういうこと。かといって塩分とって保水をあげるのも問題。今度は塩分摂りすぎで高血圧とか」

「難しいですねぇ」

「……やめよう。楽しくない」

「では楽しみな話をしましょう」


楽しみな話?

楽しいでもなく、楽しかったでもない、楽しみな話?

焼酎を飲みながら、今現在楽しそうな博哉を眺め、お通しに出された枝豆を食べる。

「……突っ込まないんですか?」

「え。何、今のって私のツッコミ待ちしてたの?」

それはどうなのよ。そんなことを求められても困るわよ。

「いいんですけどね。今度の週末に海に行きませんか?」

「海? 私は泳げないし水着もない」

「え。泳げないんですか?」

ビックリした顔に眉を寄せる。

「とりあえず浮ける。平泳ぎはするけれど、真っ直ぐにいかない」

「あ、えー……と。では、浮き輪で浮いてるのも楽しいです」

まぁ、楽しいけど。
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