君を好きな理由
「趣味を仕事に……ですか。それなら俺は古本屋の主人ですかね」

「あははは。似合いすぎるかも。でも片付け下手な時点で、客にとっては不親切な古本屋になりそうだわ」

博哉は少し考えるように難しい顔をして、それから小さく笑った。

「……そうなりますかね」

でも、探しにくい本屋は大変だけど、実は楽しいのよね。

通っていくうちに配置も覚えるし、新刊が出たらまた棚が変わって覚え直しとかも探す楽しみと言うか。

最近は機械で検索できる店も増えたし、あれは“欲しい本”を探すにはとても便利だけど……

背表紙を見ながら無目的に“何か面白そうな本はないかな?”と、選ぶ楽しみが無くなっちゃう気がしてならない。

「はるかも案外、本の虫ですよね」

「そうね。最初は華子が本好きだったんだけど」

あの子は児童文学から始まって、そのうち恋愛小説にハマって、貸し借りは出来なかったけれど、同じ本を読むようになって。

好きな登場人物のことで軽く口論になったりもしたな。

小さな頃の世界は広いようで狭くて、大人になった今から見ると、すごーく些細で小さな事を、一生を左右するくらい、とても大事な事だと思っていたりした。

……些細な事がとても大事なのは大人になってからもだけど、諦めたりとか、誤魔化したりとか……そんなことが上手になってしまうものね。

そんなことは、きっと上手にならなくてもいいのに。


そんな風に考えていたら、イキナリ抱え上げられた。


「ちょ……っ?」

「嬉しいです」


ニコニコの笑顔を見下ろしながら首を傾げる。

「何が嬉しいの?」

「ご両親と言うわけではありませんが、従兄弟さんに紹介されたのは嬉しいです」

ああ……そっか。

そういうことね。


「……だって約束したもの。約束は守るわよ。私」

「少しは進歩しましたか?」

「……進歩?」


それは気持ちの的な?

博哉の笑顔を見ながら、ニヤリと笑う。


そもそも“好き”とは言わないけれど“嫌い”じゃないのよ。


そこはどう受け止めているんだろう?


「とりあえず、海には入らないわよ」

「水着買いませんか?」

「……白いワンピースに白い日傘なら差してあげる」

「……断られなかっただけ、良しとしますか」

「さすがに海に入ってはしゃぐ歳じゃないでしょうが」

「そんな事を言ったら、相談役は年がら年中はしゃいでますよ」

あのご老人は人生を謳歌するつもり満々よね。


それもいいんだと思う。
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