君を好きな理由
「ああ見えて母も気を使っているみたいで、良かったです」

「え? 私、お母さんにまで食べさせなくちゃとか思われているの?」


「え?」


「あれ?」


キョトンと顔を見合わせて。


博哉がそっとバーベキューグリルを眺め……


吹き出し、それからお腹を抱えて大爆笑された。


「えー……笑い事ぉ?」

「……や。はるかに食べさせなくちゃ、と思っているのは俺だけで、母は母なりにフランクな服装を心掛けた様です……よ?」


あ。なるほど。それであの格好で……


とは言え、どうなんだ?

笑いながら泣いている博哉を横目で睨んでから、ジュージューいっているバーベキューグリルを見る。

「さっきのイカさんは?」

「焦げすぎてました」

「え。捨てちゃったの? もったいない」

「やぁ……さすがに消し炭は食べたくないでしょうし、それに、あの犬がくわえて行ってしまいましたし」

ああ、そうなんだ。

それでむく犬と戯れているのか……

「そこのお二人さん。ビールでも飲む?」

君子さんが中から顔を出し、クーラーボックスごと引きずってきた。

「いいんですか?」

博哉がステーキの焼け具合を確認しながら首を傾げる。

「いいわよ。どうせ今週のお客はあんたたちだけだし、うちの旦那は飲めないしね」

君子さんは言いつつ、クーラーボックスに手を入れると、ぽいっと缶ビールを放り投げられて慌てて受け止めた。

「ナイスキャッチ、彼女さん」

「ありがとうございます」

びっくりしたー。

「どうせ泊まって行くでしょ? あんたも飲みなさいよ」

博哉が私を見て、つられたように君子さんも私を見る。

「私にお伺いたてなくてもいいから」

苦笑を返すと、君子さんが笑った。

「なんだ。博哉はお尻に敷かれちゃってるのねー」

「あらあら。それは素敵ね」

テラスの下から声が聞こえてぎょっとする。

「お尻に敷いちゃった方が円満よ貴女。特にうちの男どもと来たら、気が向くままの我が儘なんだから」

亜稀さんはそう言って、テラスの階段を上がってきた。

サングラスを外した亜稀さんはとても綺麗。

溌剌とした笑顔で、特に印象的なのは眼よね。

年齢的には落ち着いているはずの年齢だけど、若々しいと言うか、楽しそうと言うか。
それに目元が博哉にとてもそっくり。

全体的な見た目は美女。

だけど、受ける印象は少女。

「お腹が空いたわ。博哉は今何を焼いてるの?」

と、私に聞く。

「あ。お肉を焼いてます」

「じゃ、任せて女子会しましょう」

「男子が一人紛れていますけど」

博哉が突っ込むと、亜稀さんは無言でバーベキューグリルを見る。

「はいはい。給仕係は居ないもの扱いですね」

拗ねた博哉に笑った。
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