君を好きな理由
お母さんに対してもデスマス調は変わらないけれど、それでもフランクな感じなんだな。

少し安心したかも。

と、思っていたら、亜稀さんと君子さんに引っ張られて、テラスに置いてあった木製のベンチに座らされた。

座らされて、好奇心いっぱいの亜稀さんの視線に若干引く。


これはなに。
私、質問攻めに合いそうな雰囲気?


「同じ会社なんですって?」

「はい」

「お医者様なんですって?」

「はい」

「髪が長いのね?」

「はい」

「はいしか言えない?」


にっこり言われて苦笑した。


「いいえ。でも、私は少しくらい緊張してもいいと思います」

「そう? こんな格好の相手でも緊張する?」

……格好は、気になるけど気にならないと言うか?
緊張感とはまた別の話になるんだと思うんだけど、違うのかしら?

「人は見かけによらないですし」

「まあ。突然真理ね!」

亜稀さんは嬉しそうに手を叩いて、それから君子さんに手渡されたビールを開ける。
それをゴクゴク飲んでから、目の前のテーブルにカコンと置いた。

「貴女から見た博哉はどんな?」

「え。博哉ですか?」

私から見た博哉?

「思っていたより笑いますね。いつもきりっと真面目な顔してましたから」

真面目な顔はいつもだけど、真面目な顔をしながら、実はおかしな事を考えているとか、呆れているとか、そういう違いも解るようになった。

「真面目な顔は遺伝かしらね。作りは私に似たのに、表情は父親に似ちゃったのよ。でも久しぶりに博哉の笑い声を聞いたわね」

「……そうですか」

「それで、それで?」

それで? そう……ですねぇ。

「真面目な顔をしてるくせに、言うことはあけすけと言うか、掴み所はないし、たまに鋭いけれど空気読まないし、ある意味自由人ですが、頑固と言うか……」

「何だか酷い言われようですね」

ステーキの乗ったお皿を置いて、博哉が苦笑した。

「あら。ここは女子会よ。男子は口を挟まない」

亜稀さんがしっしっと手で博哉を追いやり、私にお箸を渡してくれる。

「空きっ腹にビールは効いちゃうから、食べながらにしましょう。博哉が作った料理はもう食べた?」

「あ……えーと。私、お料理は出来ないので……」

毎日お弁当持参されてます……とは、さすがに言いにくい。

「そうなの? 大丈夫。私も出来ないわ。さっきのイカも焦げすぎだって、博哉に渋い顔をされたもの。とりあえず“ちゃんと焼けていれば”いいじゃないのねぇ?」

同意は出来ないけれど解る。

お肉や魚は火がちゃんと通っていればいい。
煮物はちゃんと煮えていればいい。
おにぎりは形が綺麗であればいい。
海苔巻きは海苔がはち切れなければいいのよ。

目の前のお皿のように、絶妙なミディアムレアに焼かれて、しかも微かに斜めにカットされて、綺麗に扇状に並べて、芸術品かの様にステーキソースをかけなくてもいいと思う。

……って、この造作技術はなんなのよ、博哉って。
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