君を好きな理由
「まぁ、どうせ食べるなら美味しいものを食べたいけれどねぇ」

「それは間違いないです」

力強く頷いたら二人に笑われた。

それから君子さんがバーベキューグリルの上を見て首を傾げる。

「博哉、お肉ばかりじゃなくて、そこの魚介類も焼いてよー?」

「サザエ等は殻付きで焼きますが、どうしてここにしじみがあるんですか」

「あ。それは明日の朝のお味噌汁用よ。砂抜きしてるだけ」

君子さんがステーキをひょいっとつまんで頷く。

「博哉が来ると、料理しなくて楽だわ」

……もしかして、どこにいても料理部長なのかしら。

次々と置かれる焼きたてほやほやのバーベキューを堪能して、亜稀さんはほろ酔いになってウトウトし始め、しばらくしてから君子さんは博哉と交代して、替わりに博哉が隣りに座った。


「水着は着ないんですか?」

「だから、泳げないって言ってるでしょ」

泳げないのに、買ったけどね。

「浮き輪で浮いていればいいんですよ。俺が引きますから」

「……何が目的?」

「せっかくなので、はるかの水着姿が目的です」

「そんなもの見なくてもいいと思うのね?」

「水着はロマンですよ、はるか」

「そんなロマンは海に捨ててきなさい!」

「嫌ですよ。夢も希望もありますし」

「この我が儘大魔王」

ブツブツ言いながらホタテを指差す。

「博哉も食べちゃいなさいよ。私と一緒でお昼食べて無いんだし」

「焼きながら食べてましたよ」

「そう?」

言いながら、立ち上がる。

「どちらへ?」

聞く博哉に苦笑して、サブリナパンツを脱ぐとぎょっとされ、

「え。あの、あ……」

水着姿になるとポカンとされた。

「……着ていたんですか」

「うん。言うと思っていたし」

「はるかは……文句は言いますが、よく折れてくれますよね」

「そうねぇ。きっとそういうものでしょう?」

Tシャツも脱いで、脱いだものをたたむと、持ってきたポーチから日焼け止めを取り出して肌に塗り始める。

「手伝います」

「嫌に決まってるでしょーが!」

言った瞬間、亜稀さんに笑われた。

「仲がいいのねー」


……ちょっと、いるのを忘れていたわ。


「……良いことだわね。博哉も女性をジロジロ見ていないで、ちゃんとエスコートしてきなさい」

「……ジロジロ見るのは男の性です」

「そういう事を、堂々と母親に言うって事は、博哉もまだまだねぇ。正直なのは良いけれど、嫌われる事もあるわよー」

空かさず手を上げた。

「亜稀さんに一票投じます。見られて喜ぶ女ならともかく、そうじゃない女もいますから」

「はるかはどちらですか?」

「ん? 私は見られても気にしないけど、凝視されるのは嫌ね。まあ、嫌いな相手からは、どんな風にされても遠慮して欲しいけど」

「難しいですね」

「そのようね」

着替えにいった博哉をニヤニヤ見送ると、亜稀さんと目があった。

「素直じゃないのね?」

「解りやすいはずなんですけどね」

「博哉は言葉がストレートでしょう? つまりは歪曲な言葉じゃ通じにくいわよ?」

解っては、いるんですけどね。

日焼け止めを塗り終わって、空を見上げると溜め息をつく。
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