君を好きな理由
始まりから邪険にしていたから、なかなか“素直に”言葉にしにくいかな。

まぁ“素直に”悪態はつけるんだけど……

解っているようで、解ってないよね……あの様子は。


「イチャイチャの一貫よねー。この際、博哉には頑張ってもらいなさいよ。それも女の醍醐味でしょう」

「そう……思います?」

「思うわよ。私だって年はとっても女ですものねぇ。でも、母親として言わせてもらえば……ご愁傷さまと言っておくわね」

「…………」


ご愁傷さま?


「貴女が逃げたらあの子は普通に追っかけそうよね。さすがに息子を犯罪者にしたくはないから、そこは諦めてちょうだいね?」


親としての言葉が、少しおかしい。


「……博哉がそっぽを向くかもしれませんよ?」

「思わないわねー。それに、ここまでざっくばらんに話せる博哉の彼女も初めてだから、娘として申し分がないわよ、貴女」

いや。勝手に“娘として申し分がない”とか思われても困りますが。

「そういう事だから、挙式はホテルでにしましょう。お色直しは3回くらいでいいかしら? 痩せていて背がそこそこ高いから、きっとマーメイドタイプが似合いそう」

「いきなり話を進めないで下さい!」

「だって、任せていたら晩婚になりそうだもの」


いや。もう、色々まって?


そもそも初対面。
そもそも私はプロポーズに返事すらしていない。

なに? 博哉が何か言った?

どこがどうなって、その言動?


「俺は何も言ってませんからね」


顔を覗かせた博哉の困った顔を見つける。

……と言うことは、これが噂の“予想の斜め45度” なの?


正直、博哉より疲れる……かも。


「酔っ払いは放っておきなさいよ。放っておけば、そのうち寝るから」

「君子ひどぉい!」

亜稀さんと君子さんが言い争っている間に、博哉が私の手を取ってテラスの階段を降りる。
砂浜をゆっくり歩いて、少し離れた所で博哉はテラスを振り返った。


「すみませんね。とんでもない母で」

「楽しいと言えば、楽しい方ね」

「ちょっと疲れます」

「博哉で少しは耐性ついたわよ」

「……それはそれで傷つきますが」

小さく笑うと、誰もいない砂浜を眺めた。

「……薄々気になってはいたんだけど」

「はい?」

「ここはプライベートビーチ?」

夏真っ盛りに、誰もいない砂浜なんて珍しいと思うのね。

「さすがに海岸線は国有地ですよ。まぁ、ここら一帯が君子さんの家の私有地ですから、利用客以外はあまり来ませんが」

「……やるわねー」

日本にプライベートビーチに似たような土地があるとは知らなかったわよ。

「とはいえ。ビーチと呼ぶには小さい敷地ですし……」

言いながら、繋いでいた手を離すと、博哉は目の前の小屋にいきなり入っていった。

「…………」

それから、しわしわのビニールを持って出てきた。

「今から浮き輪膨らませますから、少し待っていて下さいね」

マジですか。
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