君を好きな理由
「そうでしたか。言われ慣れていないのであれば……最初からアプローチが間違っていましたかね」

難しい顔でおにぎりを食べ終えると、お茶を飲みながら博哉は首を振る。

「失敗しました」

「そこは深く考える所じゃないし。そもそも、そんな美辞麗句並べられたら困るって言うか、そんな言い分は日本人男子に似合わないって言うか?」

「最近の男子の傾向は知りませんが、インパクトを狙いすぎました」

「え。あれは狙っていたの?」

平日昼間のデートの誘いとか、プレゼントにしては実用的過ぎる贈り物だとか、社員入口に待ち伏せしての大告白とか?


「いえ。大まかにはそうしたい時にそうするだけですが」

……ここで真っ正直に答えるところが、博哉の博哉たる由縁ですが。


「でも、そうですね。初めて旅行に行った時に、リビングで丸くなっていた貴女の寝顔を眺めていたら……」

「…………」


……眺めるなよ。そんなもの。


「生まれてくる子供はどっちに似るだろうな、と考える様になりました」

おい。

「ちょっと待って。話がいきなり飛んだけど」

「飛んでませんよ。そう思ったんですから」

いや。人の寝顔を見ながらイキナリ子供の妄想とか、どこがどのようにして繋がると言うの。

ワケが解らんでしょうが、ワケが。

「よく、解らないけど」

「男の子でも女の子でも、はるかに似たら美人になるだろうでしょうが、どちらに似ても我が儘に育つだろうな、とかですかね」

具体的に言えと言ったつもりもないんだけど。

「やっぱり我が儘な自覚はあるんだ?」

「もちろんです」

……キッパリ肯定されても困るって。

と言うか、今、軽くディスられた?

「男兄弟も良いですが、やっぱり一人くらい女の子がいいですよね。賑やかな家族になりそうで」

「……だから、貴方……話が飛躍しすぎだから」

「飛躍しすぎてませんよ。好きな者同士、結婚するのは利にかなっています」

叶ってない叶ってない。

と、言うかね?

「私、貴方を好きだって言ってないわよ!」

「そうですね。聞いてません」

ニッコリと微笑んで、それから眼鏡を押し上げた。

「でも、好きだから付き合ったのでしょう?」

「え──……」

ポカンとして、博哉を眺めると、それはそれは晴れやかな笑顔。

「はるかは意に沿わないことはしません。単に折れてくれたのかとずっと思っていましたが、俺たちは普通に“恋人同士”してますからね」

「や。あのね?」

普通なのかな? これは普通……?

「それに、はるかは外野はともかく内輪の人間には弱い。だとすると俺は内輪の人間に数えられているはずで、少なからず、俺は好かれていると分析しました」

「分析するな、そんなもの!」

目の前の博哉の頭をペシンと叩いたら、今度は困ったような苦笑が返ってくる。

「誰かの息子だから付き合った訳ではなく、好きだから付き合ったのでしょう?」

どこかで聞いたような台詞を言われて、真っ赤になった。

あ、貴方……それ。

今更、そんなこと覚えていたのか。


「ここは素直に、多少でもいいですから、好きだと言ってくださいよ」

「人前で言うことじゃない!」

「人前ではありませんよ?」

気がつけば、華子も磯村さんも姿を消していた。

いつの間に居なくなったの?
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