君を好きな理由
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目の前には、深い色合いの薔薇の花束を持つ博哉。

ニッコリ微笑んでいるけれど、ここは間違いなく社員入口を出たところ。

何事かと立ち止まる社員達が見守るなか、博哉がにこやかに薔薇の花束を捧げるように持つ。


「……何事?」


「職場以外で、正式なプロポーズにしてみようかと?」


「…………」


違う、違うのよ。


そういう意味じゃ……


そんな意味じゃなーい!


「確かに社員入口出たけど、その目の前でプロポーズする男がどこにいるのよ!」

「ここにいますが」

「馬鹿じゃないの!? いいえ馬鹿なのね!?」

「そんなことを言われて、頷く人はいません」

「誰か貴方に常識ってものを叩き込んでくれる人はいないわけ?」

「とりあえず……」

博哉は考えるように空を見つつ、指を折り始めた。

「ヨッシーさんと朝月さんには、サプライズが喜ばれると聞きました。磯村には程々にしておけと釘をさされ、山本には笑われました。後は父には解るようにちゃんとしろと言われましたし、顧問には……」

「解った! 皆にお伺いを立てたのは解った! 解ったけど、女性が一人もいないじゃない」

「いや……さすがに聞けませんよ。騒ぎになるのは目に見えてるじゃありませんか」

「だ・れ・が・同僚に聞けと言った」

思わず首を絞めたく……いや、とてつもなく首を絞めたくなったけど、自重しないと。

色んな人の視線が痛い。

特に秘書課の女性陣が固まっている区域を見つけてしまって、すこーし困った。

観月さんがポカーンと、博哉を眺めている。

眺めて、微かに肩を竦めると、キッと私を見てガッツポーズを……


何の応援だ、何の。


深く溜め息をついた。


「私は特に女らしくないわよ?」

「女らしくなくても、立派な女性ですから大丈夫ですよ」

……いや、意味が解らないけれど。

「態度は大きいし、すぐに手が出るわよ?」

「はるかは手だけじゃなくて、口も出るでしょう?」

「…………」


まぁ、間違いないけど。


どうすればいいのかな。

この人、この態度は引くつもりはないよね。

そもそも、こんな公衆の面前でプロポーズなんてして、断られたら……なんて考えなかったのかな。


考えない訳はないよね。


考えてこの結果なら……
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