君を好きな理由
「行きましょうか葛西さん」

「……そうしましょうか」

並んで歩き出しながら、隣の巨人をつくづく眺めた。

悪い人じゃないのよ。悪い人じゃ……
礼儀正し過ぎるから、たぶん、少し取り扱いが解りにくいだけで。
よくも悪くも、この手のタイプと仲良くした事がないから戸惑うだけで。

「ところでそろそろバックを返してもらってもいいです? バックを拉致しなくても飲みに付き合いますから」

手を差し出すと、葛西さんはバックを見ながら首を傾げる。

「そんなつもりではないのですが」

「そう? でも重いでしょ? 医学書も入っているし」

「そうですね。重いので、女性に持たせるのはどうかと思います」

「紳士的ねぇ。それも悪くはないけれど、私が落ち着かないから」

「慣れると良いですよ」

「いや、慣れるとか慣れないとかの問題じゃないのね? 私が平気で貴方に荷物持たせていたら、私は本気で女王みたいじゃない」

「大丈夫ですよ、私は下僕にはなりませんから」

「だから、そういう問題じゃないのね?」

「いいじゃないですか、お姫様で」

お、おひ……っ

なんだこの気障な生物。


「ちょっと磯村さん! この生き物どうにかして!」

振り返って騒ぐと、華子のへらっとした笑顔と、真顔の磯村さん。

「いや? 無理」

一言で終わらせないで!

「貴方が一番まともでしょ!?」

「いやー。それはどうだかな? 類は友を呼ぶって言うんだぞ、女医さん」

「どうしてそういう事を言うかな!」

「照れましたか。水瀬さん」

「照れない女がいたら見てみたいわ」

キッと睨み付けると、笑顔が返ってきた。

「…………」


やだ。初めてこんな笑顔を見た。

こんな可愛い顔も……葛西さんするのね。

「慣れると良いですよ」

言っていることはどうかと思うけれどね……














< 13 / 127 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop