君を好きな理由
どうしてそうなの?
*****




「休日デートしましょう。水瀬さん」

葛西さんを見上げ、諦めの溜め息をつくのも慣れてきた頃、唐突に彼はそう言った。

毎回毎回、社員入口に待ち伏せするのはどうかと思うのだけれど、彼は全く気にしていないし、私もそんなに気にならなくなってきた。

たぶん、気にしているのは葛西さんのファン連中くらい。

だって……

「毎回、断られても来るのね」

「だんだん挨拶の気分になってきました」

ならないで欲しいけど。

「いったい何回断れば諦めるの?」

「今のところは、まだ折れませんね。通算しますと25回目でしょうか」

数えてるのか。

大丈夫か、この人……

「でも、水瀬さんも毎回立ち止まってくださいますし」

「あ。そっか。じゃ、素通りしよう」

「着いていきますけど」

「それじゃストーカーだから」

歩き出しながら言うと、やっぱりついてくるし。

「好きとか嫌いだとかのお付き合いは、私は望んでいないんだけど」

嫌ぁな顔を返すと、にこりと微笑まれた。

「では、友達から始めましょう」

「あ。私は男女の友情とかは信用しない人間」

「奇遇ですね。僕もそう思います」

「じゃ、どうして言うの」

「乗ってくれれば取り込めるじゃないですか」

「私が取り込まれるとでも?」

「いえ。取り込まれるにしては自己主張のハッキリした方なので、まず無理でしょう」

無理なのにどうして言うのかな。

「どうしようもないこと言っていて疲れない?」

「言わないと始まりませんし」

駅前まで言い合いをしながら歩いて、また溜め息をついた。

仕方がない。
今日は付き合うか。

「焼き鳥食べよう。明日は休み?」

「土日は基本的に休みですが……」

「秘書課はたまに休日出勤するでしょ。休みなの?」

「休みですよ。だから休日デートを誘いました」

「あー。はいはい。よければ飲み友くらいにはなるわよ」

「一番危ないのでは?」

「そうよ。私は絡み酒よ。言っておくけどタチが悪いわよ」

「いえ。そう言う意味ではないのですが」

じゃあどういう意味か……は、解ったから目を細める。

「残念だけど、記憶なくなるまで飲んだ事はないわよ」

「判断力は薄くなるじゃないですか」

「それはね。ま、しょうがないわね」

それがお酒の恐いところよ。
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