君を好きな理由
さて……と、どこにいこうかな。
美味しい焼き鳥やさんは何軒か知っているけど……
ビシッと細身のネイビーカラーのスーツ。
グレーのシャツに合わせているベストはブラック。
ネクタイは……ネクタイの結び方は詳しくないけど、普通には結ばれていないソレも、シンプルな柄なしネイビーでまとめてる。
靴も黒、胸ポケットには白のチーフ。
髪は乱れもなく、細いフレームの眼鏡がインテリを強調してる。
この隙のない格好の男を、どこの焼き鳥屋に連れていけばいいのだろう。
歩きながら首を傾げる。
「どうして貴方はいつも、むやみに洒落っけのあるスーツなわけぇ?」
「……そう言われましても、たまに会食に同席しなければならない時がありますので」
困った顔をするから小さく笑った。
「お店の雰囲気が気にならなければいいけど」
「気になるのは水瀬さんでしょう。俺は気にしませんよ。こんな格好で漁船に乗ったことがありますので」
「スーツで漁船?」
それってどんな状況よ?
「いきなり相談役に釣りに連れ出されたんですよ。商談中の社長が釣り好きだとかで」
お供ですか……
「それは……大変ねぇ」
「俺はたまにしか駆り出されませんから。相談役つきの秘書達が一番大変ですよ」
あの相談役だものね。
振り回されそう。悪戯者と言うか……
「貴方はそんなに慇懃無礼なのに」
「少し砕けた方がお好きですか?」
「まぁね。何だか教授と話してる気分になっちゃうから落ち着かない。そもそも私は口悪いし」
「口が悪いのは磯村でしょう」
「それは言えてる」
あの人は確実に悪いわよね。
「まぁ、華子には丁度いいかな。口の悪さは私で慣れてるし、少しくらい押しの強い人じゃないとダメだろうし」
「へぇ……?」
私も押しの弱い人は苦手ではあるけどね。
何だかいじめている気分になる。
私は言いたいことを我慢する人間ではないし、だから結構“俺様”な人しか近づいて来なかったけれど。
俺様な人は結局“俺様”だから、合わなくて別れる訳で。
でも、葛西さんみたいに静かに押してくる人はどうすればいいのか……
この人、邪険にしようが気にするような顔をしないし……
傷つける様なことを言っている自覚があるだけに、どうしたらいいのか解らない。
葛西さんだって私の言動を全く気にしていない訳じゃないだろうし。
そもそも、初めての会話が私の八つ当たりだし。
……考えていても始まらないか。
今は“お付き合い”とか、考える余裕もなければ、する気もないし。
いずれは回りにグダグダ言われて、将来的にはお見合いくらいするのかも知れない。
そして釣り書にあるような条件満載の結婚をするかも知れないし、しないかも知れない。
しなければしなかったで、寂しいかもしれないけれど、寂しいからって誰かに寄りかかるのは違うと思うし、今の世の中、一人で生きる女がいないわけでもないし。
将来はきっと偏屈なお婆ちゃんになるのかもね。
「水瀬さん」
「はい?」
「どんどん繁華街から離れているけど、俺はもしかして誘われてます?」
顔を上げて回りをみると、いつのまにかラブホテル街を歩いていた。
「したい?」
振り返ると、微かに眉を上げる葛西さん。
「それは否定しませんが、今は遠慮しておきます」
「試すのもいいかもよ? 案外合わなくてガッカリするかも」
「そのつもりの女性のお誘いを断るのは気が引けますが、そのつもりもない女性のお誘いは断ります」
「……うわ。ハッキリしてんのね」
「百戦錬磨ではありませんが、今のこの状態で貴女を抱くと気まずくなりそうな気がしますし、きっとそれが狙いでしょう?」
何だろう。とても深く深く意図を考えたみたいね。
「そこまで考えなかったわよ。ただ少し考え事してただけ。お店通りすぎちゃった」
くるりと方向転換をすると、繁華街に向かいだす。
街の作りって案外おかしいわよね。
繁華街から徒歩圏内にラブホテル街って。
まぁ、いい感じに酔っぱらって、酔ったついでにいい感じになって、そのついでにいたす……って言うのは、ある意味で普通か。
どこもかしこもそうだという訳じゃないだろうけど、酔いが覚めない圏内にラブホテル街、と言うのは定番なのかしらね。
美味しい焼き鳥やさんは何軒か知っているけど……
ビシッと細身のネイビーカラーのスーツ。
グレーのシャツに合わせているベストはブラック。
ネクタイは……ネクタイの結び方は詳しくないけど、普通には結ばれていないソレも、シンプルな柄なしネイビーでまとめてる。
靴も黒、胸ポケットには白のチーフ。
髪は乱れもなく、細いフレームの眼鏡がインテリを強調してる。
この隙のない格好の男を、どこの焼き鳥屋に連れていけばいいのだろう。
歩きながら首を傾げる。
「どうして貴方はいつも、むやみに洒落っけのあるスーツなわけぇ?」
「……そう言われましても、たまに会食に同席しなければならない時がありますので」
困った顔をするから小さく笑った。
「お店の雰囲気が気にならなければいいけど」
「気になるのは水瀬さんでしょう。俺は気にしませんよ。こんな格好で漁船に乗ったことがありますので」
「スーツで漁船?」
それってどんな状況よ?
「いきなり相談役に釣りに連れ出されたんですよ。商談中の社長が釣り好きだとかで」
お供ですか……
「それは……大変ねぇ」
「俺はたまにしか駆り出されませんから。相談役つきの秘書達が一番大変ですよ」
あの相談役だものね。
振り回されそう。悪戯者と言うか……
「貴方はそんなに慇懃無礼なのに」
「少し砕けた方がお好きですか?」
「まぁね。何だか教授と話してる気分になっちゃうから落ち着かない。そもそも私は口悪いし」
「口が悪いのは磯村でしょう」
「それは言えてる」
あの人は確実に悪いわよね。
「まぁ、華子には丁度いいかな。口の悪さは私で慣れてるし、少しくらい押しの強い人じゃないとダメだろうし」
「へぇ……?」
私も押しの弱い人は苦手ではあるけどね。
何だかいじめている気分になる。
私は言いたいことを我慢する人間ではないし、だから結構“俺様”な人しか近づいて来なかったけれど。
俺様な人は結局“俺様”だから、合わなくて別れる訳で。
でも、葛西さんみたいに静かに押してくる人はどうすればいいのか……
この人、邪険にしようが気にするような顔をしないし……
傷つける様なことを言っている自覚があるだけに、どうしたらいいのか解らない。
葛西さんだって私の言動を全く気にしていない訳じゃないだろうし。
そもそも、初めての会話が私の八つ当たりだし。
……考えていても始まらないか。
今は“お付き合い”とか、考える余裕もなければ、する気もないし。
いずれは回りにグダグダ言われて、将来的にはお見合いくらいするのかも知れない。
そして釣り書にあるような条件満載の結婚をするかも知れないし、しないかも知れない。
しなければしなかったで、寂しいかもしれないけれど、寂しいからって誰かに寄りかかるのは違うと思うし、今の世の中、一人で生きる女がいないわけでもないし。
将来はきっと偏屈なお婆ちゃんになるのかもね。
「水瀬さん」
「はい?」
「どんどん繁華街から離れているけど、俺はもしかして誘われてます?」
顔を上げて回りをみると、いつのまにかラブホテル街を歩いていた。
「したい?」
振り返ると、微かに眉を上げる葛西さん。
「それは否定しませんが、今は遠慮しておきます」
「試すのもいいかもよ? 案外合わなくてガッカリするかも」
「そのつもりの女性のお誘いを断るのは気が引けますが、そのつもりもない女性のお誘いは断ります」
「……うわ。ハッキリしてんのね」
「百戦錬磨ではありませんが、今のこの状態で貴女を抱くと気まずくなりそうな気がしますし、きっとそれが狙いでしょう?」
何だろう。とても深く深く意図を考えたみたいね。
「そこまで考えなかったわよ。ただ少し考え事してただけ。お店通りすぎちゃった」
くるりと方向転換をすると、繁華街に向かいだす。
街の作りって案外おかしいわよね。
繁華街から徒歩圏内にラブホテル街って。
まぁ、いい感じに酔っぱらって、酔ったついでにいい感じになって、そのついでにいたす……って言うのは、ある意味で普通か。
どこもかしこもそうだという訳じゃないだろうけど、酔いが覚めない圏内にラブホテル街、と言うのは定番なのかしらね。