君を好きな理由
「ええと。こちらが吉田さん」

私の隣りでニカニカと手を振る吉田さんは、確かどこかの広告代理店の人。

「ヨッシーでいいよ。ヨッシーで」

一瞬、ゲームキャラクターを思い出したのは置いておくとして、

「そっちが朝月さん」

少し細面で神経質そうに見えて、実は豪快な朝月さん。

確か商社マン……だったはず。

「そっちはないだろう。そっちは……」

「そして、葛西さん」

朝月さんの隣りで真面目な顔をしている葛西さんを指差すと、吉田さんが苦笑した。

「はるちゃんは、人を紹介するのが下手だなぁ。兄ちゃんの下の名前は?」

「初めまして、葛西博哉と申します」

「そして博坊は固い……と。さては営業じゃねぇな?」

「吉さん、職種なんてどうでもいいって、名刺交換するわけでもないんだからさぁ」


40代コンビめ。結構出来上がってるな。

「飲まないと巻き込まれそう」

「この場はもう巻き込まれているのでは?」

間違いない。

とりあえず番茶割りと葛西さんのビール、それから串アラカルトを注文して、飲み物が運ばれて来てから乾杯した。

「今日はすっかり酔っぱらいね、二人とも」

「俺は新歓の帰り。うるさい上司がいたらカチコチのひよっこがさらにガチガチだったから抜けてきた」

「俺はすでに酔っぱらいの吉さんに飲まされた」

「勝手にペース上げて飲んだだけだろうが」

「そんなことはないぞ」

「そんなことはあるだろうが。まぁ、飲めや」

言いながら、吉田さんは朝月さんのお猪口にお酒を注ぐ。


飲ませてるじゃん。


呆れたら、葛西さんが面白そうな顔をして二人のやり取りを眺めていた。

「楽しそうね。葛西さん」

「とても新鮮です」

「新鮮……て、ああ」

社長令息だもんね、貴方。

言わなかった言葉を察したのか、瞬間的に睨まれた。

「俺は坊っちゃんじゃありません」

「いんや。博坊は良家の息子にしか見えんわな」

吉田さんがいきなり横から入ってきて、ジロジロと葛西さんを見る。

「こんな店でも背筋のばして、椅子の背もたれにももたれねぇ。お前はなんの面接受けに来てるって風情だ」

「今は緊張しているだけです」

「なんだ博坊は人見知りか」

「おっさんが叩き直してやろっかな」

あ……

「まぁ、飲め若造」

朝月さんがお銚子を持ち上げ、一瞬固まった葛西さんだけど、果敢にも受けてたった。

「頂きます」

「ちょっと。急性アルコール中毒とかやめてよー?」

「大丈夫です。酒の席は慣れてます」

きりっとして言われてもねぇ。

空いていたぐい飲みにお酒を注がれ、それをぐいっと飲み干す葛西さん。

「お。いい飲みっぷりだな」

「日本酒は好きですので」

「そのやたら丁寧な言葉遣いどうにかならんかね」

「努力はしてます」

「それでかよ!」

……どうみても、おっさん二人に絡まれている武士にしか見えないわ。

それでもキリッとしたままお酒は進み、しばらくして朝月さんが先に酔い潰れた。

「だらしねぇなぁ」

ぼやきながらも送っていくつもりらしい吉田さんに手を貸して、代金を支払うとお店を出てから二人をタクシーに乗せた。
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