君を好きな理由
「葛西さんはモテるんだから、引く手あまたってやつでしょう?」

いきなりガシッと肩を捕まれて目を見開く。

何。どうしたの。

どういうこと?

「正直、遠くで何のリアクションも起こして来ないけれど、まわりだけ懐柔して“葛西さんはみんなの葛西さん”などと言っている輩はどうでもいいんですよ」

「う、うん……?」


目がすわって……るけど。


「異性と少し日常会話をすれば、その女性は排除されて視線も合わせてくれなくなる。毎日毎日、帰宅まで一挙一動監視されてる。ひそひそこそこそとされる。彼氏持ちなら大丈夫かと思えば、同じでしたし」

あらあら。

「華子のことなら、あの子はそういうのは煩わしいだけだから、気にしなくてもいいわよ」

「伊原さんは堂々と俺に文句いってましたしね」

そうね。

それが私の親友よ。

と言うか、葛西さん、

「相当、酔ってるわね?」

「酔っていると申し上げました」

「あんた解りづらい!」

全くもう!
酔ったら酔ったで顔が赤くなるなり、呂律まわらなくなるなり、千鳥足になりなさいよ!

「とりあえずはるかさん」

「何よ」

「そこ座っていいですか?」

近くにあったベンチを示されて、苦笑を返す。

「いいわよ、座りなさい。お水買ってくる?」

「いえ。はるかさんが近くにいないと、眠る粗大ごみになりますから」

粗大ごみかぁ。
言えてるかもしれない。

酔っぱらいって前後不覚になるし、こんなデカイ男を運びたくもないし。
運んだとすると、足を引き摺るのは間違いないし。

「ま、とりあえず座りなさい。状態的に泥酔って訳じゃなさそうだけど……気持ち悪いとかはある?」

「気持ち悪くはありませんが、少し頭が痛い」

「飲みすぎよ。馬鹿ねぇ」

葛西さんを支えながらベンチに座らせて、隣に座りながらもバックを探る。

えーと……栄養ドリンクあげてもしょうがないし、後は胃腸薬と……

「あった、あった」

ウコンドリンクを見つけて手渡した。

「今更かもしれないけど、何もしないよりマシだから」

「ありがとうございます」

「いえいえ。まったく何合飲んだのよ」

「……さあ。六合くらいまでは覚えていますが、途中から吉田さんも参加されてましたので」

「負けてなかったわよ」

「カッコ悪いとこ見せられないじゃないですか」

「醜態みせてるから、意味ないじゃないの」

葛西さんは大きな溜め息をついてドリンクを飲み干した。


何だか可愛いわね。

仔犬と言うよりもドーベルマンだけど、これはこれで可愛いわ。

普段が真面目な雰囲気だし、決して取っつきやすいタイプではないけれど……

こういったタイプは、まず“飲みすぎない” から珍しい。

見た目はクール系なのに、やっていることは普通よね。

まぁ、あの人達と友達って段階で、すでにギャップはあるわけだけど。
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