君を好きな理由
考えてみればそうだった。

磯村さんは爽やかスマイル営業マンだけど、実はSらしいし。
と言うか、あれは大魔王っぽいし。

山本さんは天然系仔犬男子だけど、ニコニコしながら独占魔……
ある意味で腹のそこが見えない商人っぽい。


そうすると葛西さんは……?


まぁ、普段見せている姿が、そのままの葛西さんとは思えないわね。

でも、今日は逆にそれだけ素……という事?

「そっかそっか。貴方も酔ってるのにはかわりないじゃない」

「それこそお互い様ってやつです」

「ですます調は変わらないわけ?」

「家族でもこうなので」

「え。そんなの嫌だ」

「嫌ですか」

「だってつられて敬語になっちゃうし、嫌味っぽいじゃない」

食卓かこんでまで、ですます調で会話する家族なんて寒いの一言につきるじゃないの。

「家族と会うのは主に会食か何かのパーティ会場でしたので、自然とそうなったと言いますか……」

ごめん。

もっと寒かった。

何だか普通の事のように話しているけれど葛西さん、それは普通の事じゃないから!

「解った。無理に直す必要もないわね。それが貴方の普通なら、そういう口調なんだと認識する」

「そうしてもらえると助かります」

どこかホッとした様子に視線を外した。


季節はもう春真っ盛り。

桜も散ったし、雪はもう降らないし、季節はどんどん移り変わって、パステルカラーの服装も増えてきていた。

何となく、遠くに見えるネオンの明かりや、通り過ぎる車のハザードランプを見るともなしに眺める。

こうやって誰かと飲みに行って、こんな風にゆっくりするなんて久しぶりかもしれないな。

華子たちと飲み会はしても、解散したら家に真っ直ぐ帰っていたし。

そもそも焼き鳥屋さんでご飯して、飲んで騒いで、誰かと意気投合したとしても、食べ終わったらその場でバイバイだし。

いつぶりだろうな。


そう考えて苦笑した。


考える必要もないわね。

一昨年の大晦日以来……よね。

それ以来、誰かと二人で飲みに来たことはなかったか。
毎日忙しかったしなぁ。
今よりもバタバタしていたのは確かだよね。

バタバタして、すれ違って、大喧嘩して。

思い出してもムカつくな。

研修医時代からの付き合いだったから、2年は付き合った男。

少し優柔不断なところはあったけど、大変な時にはきちんと支えてくれた人だった。

優しいけれど、優柔不断……

結局は、その優柔不断さが原因で別れたわけだけど。


そこまで考えて、肩にずっしりとした重みがかかってきた。

間近にスヤスヤ安らかな葛西さんの寝顔。

イビキはかいていない、顔色は……ここの街灯じゃ解らない。

最低限、呼吸は安定している。


「してても困るわよ、眠り粗大ごみになっちゃったじゃないの!」

どうすれって言うんだ、この男は!
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