君を好きな理由
選択肢は3つ。
1.放置して帰る。
2.このまま二人で夜を明かす。
3.華子に連絡して、磯村さん呼び出す。
1はないな。
それをやったら鬼畜の所業。
もちろん寝覚めは悪くなる。
2は季節的に無理。
春とは言ってもまだ夜は肌寒くなることが多い。
昼と夜の温暖差に、風邪が流行りかけている。
医者としては言語道断。
3が一番妥当だけど……
休日前の恋人同士、こんな夜遅くに連絡するのはどうかと思う。
と言ってもこの状況。
バックを探ってスマホを取りだすと、直ぐ様華子に連絡。
『もしもし? 水瀬?』
「夜遅くにごめん。磯村さんいる?」
『うん? 代わるわね』
「あ。ちょ……っ」
代わらなくても……
思ったけれど、何やらすでに向こうでやり取りが始まっている。
『どーした女医さん』
淡々と返ってきた返事に、何て言うか迷ったあげく、
「……えーと。ごめんなさい」
とりあえず謝ってみると、小さな笑い声が聞こえた。
『別に謝る事はねぇよ。俺達も帰ってきたばかりだけど』
「今?」
『飯食ってきた。そんで、なんか用か?』
単刀直入だな。
話が早くて助かるけど。
「葛西さんと飲んでて、酔ったらしくて、少し休んでいたら寝ちゃったの。助けて」
『おー……葛西を潰すとは酒豪だな』
「そこ感心するところじゃないわ。と言うか、ここ外だし。葛西さんを私は運べないし。もたれ掛かってきてるし……どうすればいい?」
『あー……まぁ、俺は車もってこれねぇしなぁ。大変だな』
ひー。
あっさり投げられそう。
『とりあえず場所を言え』
あ。
どうにかなりそう?
場所を告げると向こうで復唱する。
『そこなら……まぁ、少し我慢しとけ。山本行かせるから』
「ありがとう」
『まぁ、笑顔で嫌み言うかもしんねぇけどそこも我慢すれよ?』
「…………」
うん。文句は言えませんとも。
通話を切って、安らか眠りについている葛西さんを見る。
肩にのし掛かられると、ちょっと辛い。
揺すってみても起きる気配は全くないし……
それなら膝に乗せてしまおう。
ゆっくり動かして、頭を膝に置くと楽になった。
「…………」
なったけれど、これって“単なる友達の恋人の友達”にするような事なのかしら。
普通はしないかもしれない。
でも、この場合は仕方がないわよね。
仕方がない……
そんな風に、自分を言い聞かせるようになったのは、いつの頃からなんだろう。