君を好きな理由
時代錯誤もいいとこだけど、彼の家族は働く女に偏見のある人達だと気づいていた。

しかも、私は未だに根強い男性社会の“医者”だものね。

よほど鼻持ちならない女だと思われていたらしい……それは薄々知っていた。

だから何?

付き合っているのは私と彼なのだからと、無視をしていた。


そう思って見ないふりをして、目を隠しているうちに、きっと彼ともすれ違うようになっていた。


私が傷つけられたのなら、彼もきっと私に傷つけられていたんだと思う。

恋愛ってお互い様でしょう。

一方だけが傷つくなんて事はない。


表面上の付き合いだけであれば、傷つくことはないでしょうけれど……

相手を想えば想う程、壊れた時の傷は深いわね。

誰かと付き合っても、その誰かに集中できない。
真剣なお付き合いは望んでいないし、望める状況でもないのに……

真面目な葛西さんでは、遊びは無理でしょう?

どうして私なの?

そう聞ければ楽なのかも知れないけれど……
相手にするつもりもないのに、聞けないと思うし。

葛西さんが彼と同じだとは思わないけれど、普通一般人よりもしがらみが多いだろうとは予想がつくし。


……なんだかうまくまとまらないわね。

そもそも酔った頭で考えることじゃないのかもしれないけど。



「あれー。本当に寝てるね」

「きゃああ!」

いきなり背後から声がかかって顔を上げると、パーカー姿の山本さんが目を丸くして立っていた。

「ご、ごめんなさい。びっくりして」

「ううん。逆にびっくりさせてごめんね。お迎え来たよー?」

「あ、ありがとう。ごめんなさい」

「いいよー。どうせ暇してたし」

え。

「婚約中の彩菜ちゃんがいるのに?」

「招待状書く気がないなら出ていけって追い出されたとこ。パソコンでやった方が早いと思うんだけど、手書きにこだわってた」

「幸せそうな喧嘩ね」

「まぁね」

そう言いつつ、葛西さんの顔を覗き込み、首を傾げる。

「今の悲鳴でも起きないなんて、相当飲ませたでしょ」

「私が飲ませた訳じゃないわよ。葛西さんが勝手に飲み競べ始めたんだから」

「……男のメンツってやつだねー」

前に回ってきて、葛西さんの大きな身体を退けてくれた。

「お医者様も同乗してくれるとありがたいな」

「解った。一応、眠る前にウコン飲ませたけど……」

葛西さんをおんぶする山本さん。

あの巨人を軽々。
男の人は、やっぱり見かけによらないよね。

結構乱雑に葛西さんを、後部シートに投げ出して、山本さんは私を見た。

「また膝枕する? 助手席座る?」

「医者の模範解答としては膝枕でしょうね」

「ならしてやって、後で絶対悔しがるだろうけど」

そういうもんですか。

置いてけぼりの葛西さんの鞄も持って後部シートに収まると、彼の頭を膝に乗せてから肩を竦める。
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