君を好きな理由
「本当にごめんなさい。私もこうなるとは思ってなくて」

「いいよ。葛西の酔い方は特殊だから。限界が来るとパッタリ寝るんだよね」

だとすると、かなりネムネムしてたから、限界でも彼なりに頑張ってはいたんだろうな。

「山本さん。今度何かお礼するわね」

山本さんは運転席に座りながら吹き出した。

「どうしてはるかさんが俺にお礼するの。迷惑かけたのは葛西じゃん」

「でも、私ものほほんと見てるだけだったし。同席してたんだから、止めなくちゃいけないじゃない?」

クスクス笑いながら、山本さんはシートベルトをつけてミラーを直す。

「はるかさんが責任負う必要はないよ。葛西だっていい大人なんだし」

言いながらエンジンをかけた。

「無責任よりはいいけどね。じゃ。今度買い物つきあってやってよ」

「…………」

買い物?

誰の?

「彩菜がやっぱり化粧品欲しいらしくてさ。誰の入れ知恵か、化粧は女の身だしなみだって騒がれてる」

あー……うん。
それはたぶん、私の入れ知恵かしらね?

動き出した景色を眺めるフリをしながら、葛西さんの頭を支える。

「山本さんは、彩菜ちゃんのお化粧に相変わらず反対なの? 彩菜ちゃんって化粧映えするじゃない」

「だから困るんでしょーが。彩菜は素っぴんでも結構モテるんだから」

なるほど。独占欲が炸裂してるわけ。

「お願いとしては、あまりアイライン系を派手にしてほしくないかなぁ?」

「派手な化粧は彩菜ちゃんに合いません。かと言ってピンク系も似合わないわよね」

でも青系はクール過ぎるし、けっこう目鼻立ちはくっきりしてるから、ナチュラルでいい気がするんだけど。

「でもどうしてアイライン?」

「こないだ近所の高校生にギャルメイクされてた」

「黙ってされてたの?」

「ものは試しを実践したらしい」

「果敢ねぇ」

「反動だよねー。反抗期みたい」

ニコニコしながらの言葉とも思えないけれど。

そうしているうちに車は何となく見覚えのある道を進んでいて、山本さんはマンションの地下駐車場に降りていく。

「会社から近いのね」

「秘書課は急に呼び出される事もあるらしいからねー」

ああ。
そうかもしれない。
たまに臨時出勤がどうのと言っているのを聞いたことがあるな。

とりあえず駐車場に車を停め、山本さんは後部シートに来ると唐突に葛西さんの鞄を開けた。

「鍵ださないと、ここオートロックだから」

「いいマンションに住んでるわね」

「まぁ。そこは激務なだけはあるんじゃない?」

そう言いながら鍵を見つけると、鞄を私に押し付け、またもやヒョイっと葛西さんを抱えあげた。

「山本さんて、けっこう力持ちね」

「そりゃ男だし。なよなよして見えた?」

「かなり」

山本さん、口調が柔らかいからな。
これは勝手なイメージなんだろうけれど。

前後不覚の人を抱えながら、地下駐車の入口で自動ドアを鍵で開け、マンションのエレベーターに乗り込む。

葛西さんの部屋は12階にあった。
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