君を好きな理由
リビングはシンプルな白い壁。

所狭しと並べられた本棚には、ずらりとハードカバーのビジネス書。
棚によっては推理小説もあるし、床にそのまま積み上がってる本もある。

中央には3人くらい座れそうなソファーに、部屋の片隅には一応テレビ。

なんだか書斎にいる気分になるな。


テーブルにはトーストでも食べたのか、パンの粉々が乗ったお皿にマグカップ。
覗き込むと、コーヒーが底に残っている。

皮張りのソファーに葛西さんを寝かせ、山本さんは腕をぐるぐる回した。

「重かった」

「お疲れ様です」

言いながら片隅に葛西さんの鞄を置いて、キッチンに向かう山本さんを視線で追う。

勝手知ったる友達の家?
冷蔵庫を覗き込む山本さんの口笛が聞こえた。

「やっぱり用意いいな。スポーツドリンクあるし、お茶もあるから大丈夫だよね」

「酔うと喉乾くから」

「じゃ、後はよろしく」

「え。そんな感じ?」

山本さんはニヤニヤしながら葛西さんを指差す。

「その分だと朝まで起きないコースだから。責任なら葛西にとってあげて」

いや。それはどうかと……

でも、飲ませちゃったのは私だし。

でも。

「大丈夫。そういう所は葛西は紳士だから」

紳士だからって……そりゃ紳士なのは知っているけども。
だいぶ状況がヘビーじゃないの?

考えているうちに、山本さんは手を振り帰ってしまった。

まぁ、落ち着いていたら帰ればいいだけだし。

寝こけている葛西さんを眺め、腕を組んだ。


いつもよりゆるゆるな服装の葛西さん。
とりあえず、ジャケットはシワになるから脱がそうか。
ハンガーはどこなのかな。

とりあえず……ズボンは、さすがにそのままに。

ベルトは緩めとく?

いや、やめておこう。

何か上にかけるものがあった方がいいわね。

って、寝室にいかなきゃならない感じ?
でも眠ると体温下がるし、酔いがあるうちはいいけど、放っておくと風邪をひくわよね。

バックを置いて、辺りを見回すと苦笑した。

この際よ、勝手に家捜しします。
葛西さんに手を合わせて拝んでから振り返る。

とりあえずリビングに隣接するドアは2つ。

開けてみて首を傾げた。

こっちはウォークインクローゼットかしらね。
スーツがたくさんかかってる。

いいなぁ、ウォークインクローゼットって。
とりあえず空いているハンガーを手にとって、葛西さんのジャケットを苦労しながら脱がせてクローゼットに吊るした。

それからもう一つのドアを開けてにんまりした。

寝室はこっちね。

ベッドに直行して、上掛けを外すと布団を持ち上げる。
羽根布団は軽くて助かる。

それをリビングの葛西さんにかけて落ち着いた。


まぁ、こんなものでしょ。

呼吸は安定しているけど、暑いのか、たまに布団を剥いでしまう。
それを何度かかけ直しながら床に座った。
真面目な真面目な葛西さんの醜態なんて、滅多にみる事はないわよね。

テーブルに肘をつこうとして、置きっぱなしのお皿が目についた。


実は何気に無頓着かな。

暇だし洗ってしまおう。

お皿とマグカップをキッチンに運び、見える風景に思わず苦笑した。

明らかに“友達の彼の友達”の権利を逸脱してるわ。

まぁ、いいか。
やりたいからやるんだし、やりたくなかったらやらない訳よ。

難しく考えるのは、医学の勉強だけでいいじゃない。
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