君を好きな理由
さて。

一応、利用者名簿に記入しようかね。

ペンを片手にデスクを振り返ろうとしたら、観月さんに負けないくらい不思議そうな顔をした葛西さんと目があった。

「なに?」

「今のは何ですか?」

「何ですかって言われてもねぇ。あんな真っ青な顔して急に立ち上がったら貧血起こすじゃない」

「はあ……」

「お腹が空くと女の子は貧血起こしやすいから、気を付けてあげないとね」

「ああ。それはありがとうございます」

「いえいえー」

葛西さんも出ていって、観月さんの名前を記入し終えると、パソコンのデータを引っ張りだす。

まぁ、各部署に顔を出すのは月に1回か2回。

調子が悪いか、ケガでもしないと用事もない医務室。

何してるんだろうとか思われているんだろうなぁ。

それでも、健康診断の事後処理もあるし、診断結果が悪ければ面談もするし、逆に相談に来る人もいるし。

月に100時間越える残業にならないように、それとなく無理しないように言わないと続ける人は続けるし。

もちろん総務部と人事の連携は欠かせないし。

衛生委員会もあるし、医療関係の専門家との連携もある。

プラス、日常の社員の健康管理に、医師として進化する医術のスピードについていかないと腕もなまってしまうし。

……考えてみれば、定時で終わるとは言え、勤務医並みにある意味で忙しいかもね。


とりあえず、健康診断のデータを入力しないと。
うちの会社は従業員多いし大変。

ファイルを広げデータ入力して……

しばらくしてから、ノックの音に顔を上げた。


「どうぞ?」

声をかけたらドアの隙間から顔を出したのは華子。

「あれ。そんな時間?」

「そんな時間。お昼よ」

「今日もここ?」

「ううん。磯村さんも今日は会議中。最初から遅くなるの解っているからランチに行きましょ」

「え。嬉しい。行く行く」

パソコンを閉じて、セキュリティカードを抜く。
それから白衣を脱いでバックを手に取ると、小首を傾げた。


磯村さんはいいけど、葛西さん来るんじゃないかしら。

いつものメンツを考えるとくるわよね。

「あ。ちなみに葛西さんは役員会議の真っ最中だから、今日は来ないと思うわよ」

「……別に気にしてません」

言うと、華子がニヤリと笑った。

「一瞬、気にしたくせに」

「あんた、ちょっと磯村さんに似てきたわね」

とても嫌な顔をされた。

「……それは嫌」

「あんたたち、付き合っているのよね?」

「もちろんよ」

彼氏に似たくないって、磯村さんはどんな人よ。
< 34 / 127 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop