君を好きな理由
よくも悪くも真面目な華子。

私からすると生真面目にお局様を頑張っていたのにね。

「そういえば、まだ後輩の子に懐かれてるの?」

「さすがに昼休みに一緒しましょうとは言われなくなったけれど、今度は逆に変な含み笑いが返ってくるようになったわ」

ムフフって感じに?

「彼氏とランチなんでしょう~みたいな感じかな?」

「そうね。まぁ、間違いでもないけれど、皆とランチよね」

確かにね。

磯村さんと華子と葛西さんと私。

「で?」

言われて瞬きを返した。

話をそらしたのがばれたらしいな。

「葛西さんは真面目な人らしいから、水瀬にはいいと思うんだけど」

「何を根拠に?」

「水瀬も案外真面目だから。チャラチャラしてるけど、締めるときにはちゃんと締めるじゃない」

「そんなじゃないわよ。面倒になったら放り出すわよ」

「それは否定はしないかな」

「してよ」

苦笑した所で、頼んだ注文が届いて口を閉じる。

店員さんが離れると、華子はフォークを手に取り念入りに除菌用ウェットティッシュで拭き取った。

通常のウェットティッシュに、除菌用のウェットティッシュ。
ビニール袋各種に、マスクにゴーグル、白手袋は欠かせない華子。

一回使ったら捨てるのは、かなりエコじゃない。

「日常品にお金かかるよねー。あんた」

「今は私の話しはしてないから」

キリッと言われて両手を上げる。

「葛西さんは無理よ」

「どうして? あんなに引っ付かれてるのに」

「だって結構真剣なんだもん」

フォークを手に取り、美味しそうな海老と茄子のトマトソースパスタを絡める。

一口食べてニッコリした。

あっさりしていそうで、けっこう味付けは好みの感じ。

チーズも入ってるな。

もくもくと食べて、無言の華子に首を傾げた。

摩訶不思議な生物でも見るように眺められてる?


「水瀬?」

「なぁに?」

「私の認識がおかしかったら言ってね? 男女のお付き合いって、真剣な方がいいんじゃないの?」

普通一般的には。

そりゃー、付き合った男があっちこっちに女作るような、そんな不埒ものは勘弁してほしいし嫌だけど。

ましてや、お前が本命であいつは浮気相手だから、なんて言う男は鉄拳の餌食にしたいけど。

それとはまた別次元の話。


「真剣に付き合うって、時期が悪いわよ」

「時期? そんなものあるの?」

「あるわよ。私はまだ勉強したいし。まだまだ終わらないし」

華子は目を細め、パスタを食べながら少しだけ視線を外していく。

「お医者の勉強に終わりなんてあるわけ?」


ないわね。

「まともなつきあいをする時間がないじゃない。デートは楽しかったけど、今はそこに時間を取られるのは嫌」

「デートしたんだ?」

あら。ばれた。
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