君を好きな理由
まぁ。でも、少しだけスッキリしたかな。
久しぶりに女だけの会話って、気楽でいい。

華子となら、なお気を使わなくて済むし……


そう思うのはどうしてなのか。

考えない訳ではないけれど、深く考えるのはやめている。

考えても始まらないし、毎日そんなに暇でもない。

暇なんて、作ろうと思えば作れるものだけど、作るつもりがなければできるはずもなく。


……そう。作るつもりがないのよ。


つもりがないのにね?



「お疲れ様です」

にこやかに社員入口に立っている葛西さんに頭を抱える。

「秘書課は忙しいんじゃないんですか……」

「残業は、あまりしない主義なんです」

「出来る男は違うわね」

「やれば終わるのが俺の仕事ですから」

目を細めて睨んでから、馬鹿馬鹿しくなって溜め息をついた。

きっとあれよ。これは糠に釘って諺がきっとピッタリくるんだろう。

「なんなのよ。貴方は持久戦でもしたいわけなの?」

「いいえ?」

構えは持久戦じゃないの。

「まだまともに相手にされていない事には気がついていますから」

「はあ?」

言ってしまってから、通り過ぎる社員達の視線に気がついた。


……無視しても、ついて来るんだろうな。

それでもここにいるよりマシだと判断して歩きだした。

「水瀬さん。俺の言っている事のほとんどを、話半分にしか聞いていないですから」

「あー……そりゃそうでしょうよ。どこの世界に、いきなり飲み会で、しかも唐突に、付き合えって言う奴がいんのよ」

「世の中の合コンはそうなのでは?」

「合コンでいきなり付き合えって言うの? 貴方は」

「いえ。参加した事がないので解り兼ねますが、合コンはそういう場なのではないのですか?」

異性との出会いの場ではあると思うけれど、告白する人はいないと思う。

「合コン参加した事がないの?」

「山本は学生時代それなりに呼び出されたそうですが、俺や磯村は呼ばれた事もありませんから」


それは解る気がする。


生粋の礼儀正しさで、キッチリと飲み会に参加する葛西さんを想像して吹き出した。

……面接でも受けるかの様だと表したおじさま達が正解。

こんな人がいたら、合コンはさぞかし気詰まりだろう。

おじさま達くらい年嵩で、葛西さんを若僧扱いする人ならともかく、学生の軽いノリが通用する相手でもなさそうだし。

「はるかさんは、今日は夕飯はどこで食べるんです?」

「どこって……外食限定?」

「自炊ですか?」

いや。しないけど。

休みの日ならいざ知らず……まぁ、休みだからって張りきって何か作るわけでもないけれど。

だいたいコンビニのパンに珈琲か紅茶で済ませてしまうし。

「はるかさんは、あまり家事が得意ではなさそうです」

「どうしてそう思うのよ」

「この間、朝食の洗い物を手伝ってくれましたが、慣れていると言うわけでも無さそうでしたから」

「悪かったわね」

確かに得意ではないわよ。

得意じゃないけど、全く作らないわけじゃない。
なんて言うか、どの調味料をどのように入れればいいかが大まかにできないだけよ。

手伝いくらい出来るわ!

美味しいかはともかく!
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