君を好きな理由
奥の席では辞書を片手に、学生さんらしきが、大きなハンバーガーに齧りついている。

隣の席のスーツ姿のお姉さんは、タブレットを見ながらお蕎麦を食べている。

その後ろのおじさんは、ビールを片手にフライドチキン。

その向かいに座るおば様はオムライス。

「……ここは何屋さん?」

「カフェという名のレストランですかね。ファーストフード程ではないですが、かなりお手軽です」

トレイに珈琲カップと立派なティーポットを乗せて、葛西さんが立っていた。

「……セルフサービスなの?」

「すぐに出来るモノに関しては。勝手に注文してきましたが、問題ないですか?」

いや。注文してきてから言われてもね。

「昼は何を食べました?」

「華子とパスタ」

「まあまあのチョイスでしたかね。本を読みたいと言ってましたから、サンドイッチ系にしました」

「サンドイッチは好きよ。どうせコンビニパン生活だし私」

「……それこそ不養生」

「癖よ癖」

救急時代は、いつ搬送されてくるか解らないから、ゆっくり食事ってわけにもいかなかったし。

ニヤッと笑うと、ふっと笑われた。

「はるかさんてしっかりしていそうでしっかりしてないですよね」

「私をしっかりしていると言う人は珍しいわよ」

「たまに磯村の気持ちが解る気がします」

まったく解らないけど。

ティーポットから慣れた手つきで紅茶を注ぎ、ティーカップを私の目の前に置く。

それから席に着いて珈琲を飲み始めた葛西さんを見つめた。

「……ありがとう」

「いいえ」

「でも、無言になるけどいいの?」

「大丈夫です。俺も無言になりますから」

あ、そう。

よく解らないな。
誰かと夕飯を食べにいくのは、その誰かと話をしたいから、じゃないのかな?

「一緒に食べているのに無言って、何かが違うような気がするんだけど」

「そうですか? 俺は結構無言多いですけれど。話を聞いているだけでも楽しいですし」

「要するに、一緒にいたいだけ?」

「そういうもんじゃないですかね?」

そういうもんか。

ぼんやりしていると、小さく吹き出された。

「はるかさんは人に気を使いすぎですよ。人それぞれなんですから、そこは気にしないように」

「気にしなくてもいいの?」

「俺に関しては。構って欲しいときには口開きますから」

そう。

何だか納得したような、しないような。
理解はできないけど、それならそれでいいか。

本を開いて読み始めると、葛西さんも鞄の中からハードカバーの本を取り出して読み始めた。


……本当にいいらしい。

何だか、不思議な感じだな。


不思議だけど、嫌いじゃない。

静な中で読むのも良いけれど、私はいつも音楽を聞きながら本を読むし、店内のBGMの中、微かに聞こえる話し声も心地良い感じ。

しばらくして、葛西さんが注文してきてくれたらしいサンドイッチとサラダが届いて、無言で皿を差し出されてひとつ手に取る。

ライ麦パンにレタスとアボカドと海老のサンドイッチ。

美味しく食べていたらまた笑われた。

美味しいものは美味しいのよ。
ちらっと睨んでから、また本の世界に埋没する。



そしてお皿の上のサンドイッチが無くなる頃、葛西さんが席を立った。

なんだろうと思っていたら、今度はドーナツと、新しいティーポットを持って戻って来る。


これは参りました。
本を閉じて溜め息をついた。
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