君を好きな理由
そういうものですか?
*****





私は何故かいま、綺麗な新緑の見えるテラスで紅茶を飲みながら、葛西さんに抱えられて本を読んでいる。


どうしてこの状況?


発端は解っている。


それはGWにあと何日か、と言う数日前のこと。



「おめでとう?」

いつものお昼休み、一番始めに医務室に来た磯村さんが真面目な顔でそう言った。

「……何、その疑問系な祝福」

読みかけの本にしおりを挟み、ベッドに座って寛ぎ始めた磯村さんを見て眉をしかめる。

「昨日の夜、葛西から連絡きた」

連絡? 連絡ってなんの……

昨日?


って、あんたらは男子高校生か。

付き合い始めましたとでも報告でもしたわけか?


「声が浮かれてたから、良いことがあったんだと思って」

「私、たまに磯村さんの頭のなかを覗いてみたいわー」

声が浮かれていたくらいで、どうして私に“おめでとう”なワケ?

睨み合っていたら、華子が入ってきた。

いつにも増してキッチリキッチリまとめられた髪。

律儀にいつも磯村さんの分と、自分のお弁当持参。

「……お邪魔しまーす?」

「なんのお邪魔よ。そしてどうしてあんたも疑問系よ」

「や。なんだか見つめあってた雰囲気だったから」

「睨みあってたの間違いだろ」

磯村さんが溜め息をついて手招きする。

「そう?」

華子が磯村さんの隣に座るのを眺めて、バックに本をしまった。

今日はおにぎり。

とりあえずアルミホイルの塊を取り出したら、華子に怪訝そうな顔をされた。

「珍しい。大丈夫?」

「大丈夫よー」

おにぎりなんて、白米に具を入れて、お塩を振りかけて、海苔で握れば良いだけじゃない。

簡単簡単。

形も素敵な三角おにぎりよ。

お茶をいれている最中に葛西さんも来て、いつものランチタイム。

おにぎりを一口食べて、お茶を飲んだ。


「…………」


うん。


塩って感じだわ。


「どうかしましたか?」

「うーん……買ってくるかな」

葛西さんの視線が落ちて、腕を捕まれると同時に食べ掛けおにぎりを食べられる。

「あ……」

「……塩加減を間違えましたか」

「わ、悪かったわね!」

どうせ慣れないことしたわよ!

だってなんだか早起きしちゃったのよ!

早起きして、試しに作ってみようとか思っちゃったのよ!

馬鹿よ馬鹿なのよ!

「サンドイッチで良ければどうぞ」

ガサゴソと袋からタマゴサンドを取り出して、手の上に乗せられる。

「だめよ。お腹空くでしょ」

「大丈夫。弁当もありますから」

中から出てきたのは、コンビニの大盛り弁当。

「ついでにこちらもどうぞ」

デスクに置かれたのは、缶入りコーンスープ。

「……驚いた。結構大食い?」

「今日は社長に付くことになってまして、あの人付きだと残業になる事が多いので念のため」

「あれ。専任秘書の大槻女史は?」

「病欠です」

「え。あら。どうしたんだろ。風邪も裸足で逃げそうなくらい健康オタクなのに」

「さて。引き継ぎでは伺いませんでした」

大病じゃなきゃいいけれど。

「とりあえず、ありがとう」

……と、怪訝そうな顔の華子と、苦笑している磯村さんに気がついた。
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