君を好きな理由

「やっぱりおめでとうか？」

ズバリ聞かれて葛西さんが頷いた。

「とりあえず」

「そう。とりあえず」

私も頷いてタマゴサンドのフィルムを開ける。

まぁ、付き合い始めた事がおめでたいことなら、そういうことよね。
だからって大幅に何か変わるわけではないけれど、距離感は変わるのかな？

今。平気で人の食べ掛けおにぎり食べたよね。

なんだか新鮮だったかもな。

“ちょっと一口”みたいなノリって、華子とは無理だったし。

……考えてみると初めて？

初めてって言うか。

「……間接チューって、実はエロいわね」

「そんなことを堂々と言うはるかさんも、いかがなものかと……」

「だって、キスと違って食べ物だと、飲み込まれるのよ？　エロくない？」

「キスしたら、混ざりあうじゃ……」

「ストップ！　待てや、お前ら」


磯村さんが苦笑しながら割って入ってくる。

びしっと私たちを指さし、

「お前ら下品」

「お前らとか言ってる人も下品だと思う！」

「いや。もっと気を使え？」

気を使わないわけじゃないんだけど、唯一気を使いそうな相手は。


……真剣に悩んでいるしね。


「華子。たまに人の話も聞かないと、つけこまれるだけよ？」

華子が顔を上げ、小首を傾げた。

「おめでとうの意味は？」


そこを考えていたの？


「あんた見た目と違って、未だに和みキャラだわー」

磯村さんは呆れているし、葛西さんは葛西さんで冷静に華子を眺めているし、華子は眉をしかめたし。

いや、本当に。

私の友達だから、言うことは時として辛辣だけど、根はお人好しだから、たまにこういう時もあるんだよね。

「なんてことないわ。葛西さんと、とりあえず付き合い始めただけだから」

「え。そうなの？　それは葛西さんお疲れ様です」

深々と頭を下げる華子に、ちょっと顔をひきつらせた。


どういう意味ですかね、華子さん。


「水瀬をよろしくお願い……」

「しなくていいから。どうしてあんたによろしくお願いされなきゃならないの」

「水瀬も磯村さんに私をお願いしたじゃない」

「あんたそもそも、磯村さんと結婚するんでしょうが。ただ付き合い始めるのと結婚じゃ、だいぶ違うわよ」

「ええ。その通りですね。でも、とり
あえずですから」

葛西さんがニコリと微笑んで、お弁当のご飯を食べた。

ゆっくりと咀嚼している彼を見て首を傾げる。

「葛西さんは前向きねぇ」

「後ろ向きになる要素がありません」

「なりなさいよ“とりあえず”なんだから」

「そうです“とりあえず”交際始まりましたから、“とりあえず”、どう転んで行くかは未定です」

「そのなかに“別れ”も含まれてる？」

「別れを前提にお付き合いするわけではありません。Que Será, Seráです」

なるようになりますか。

「発音よく言われてもねぇ」