君を好きな理由
そんな感じで話していると、いつも昼休みが終わりに近づき、華子がテキパキとゴミを集め始める。

手術用のゴム手袋がマイブームらしい。

片付け終わり誰もいなくなると、とたんに静まり返る医務室。


微かに聞こえる空気清浄器の音。


……空気清浄器のフィルター交換でもしようかな。

それから健康診断の書類に目を通して、本でも……

思った瞬間にノックの音。

「どうぞ?」

入ってきた顔に首を傾げる。

「すみません。靴擦れしてしまって……」


……どこかで見た顔ね。


品は損なわない程度に綺麗にまとめられた巻き髪。
ナチュラルに見えてしっかり可愛らしいお化粧。
高そうなクリーム色のスーツ。


「観月結香か」

「フルネームで呼ぶのやめていただけません? しかも呼び捨て」

嫌な顔をしながら、入室してくる観月さん。
葛西さんシンパのリーダーだから、告白騒動のあとはちょくちょく顔を出すようになった。

「今日は仮病?」

「違います! 本当に怪我をしたんです!」

「あ。そうなのね。じゃ、座って……」

足を引きずりながらの彼女に、眉をあげた。

「ストッキング血まみれじゃないの。どうしてこうなる前に処置しなかったの」

処置椅子に座りながら、顔をしかめる観月さんに渋い顔をすると、プイッと顔を背けられた。

「あのね。怪我が小さいうちに処置するのと、こんなに皮が剥けて血まみれになってからとじゃ、大分違うのよ?」

「だって」

だってもないわね。

まぁ、私の顔を見たくなかったのかも知れないけれど。
さんざん仮病を使って医務室に来ていたから、かなり片手間にあしらったし。

「女でしょ。せっかく綺麗な脚なのに、傷が残ったらどうするの」

「ラ、ライバルに手助けなんてされたくありませんの」

「馬鹿じゃないの? そんなこと言ってる暇があるんなら、バンドエイドくらい持つ 女らしさを身に付けなさい」

華子は持ってるわよ。
あの子の場合、理由は触られたくないから、簡単な怪我は自力で治したいだけなんだけど。

しゃきしゃきハサミを持ちながら、精製水を探していると、

「バンドエイドなんて、恥ずかしい……」

大判のバンドエイド貼ってやろうかしら。

「替えのストッキング持ってる?」

「え? はい。当たり前です」

「じゃ、切っちゃうわね」

ストッキングをつまむと、

「え。き、切るんですか? ぬ、脱ぎます!」

「脱いでもいいけど血まみれストッキングをどうするの。脱ぐと擦れて痛いわよ? しかも血がついたまま持ち歩かないでね? まずはビニール袋に密閉して、ゴミ箱に捨てるのはやめてよ?」

「き、切ってもいいです」

「変な意地張らないでよ」

チョキチョキとストッキングを切り裂いて、くっついてしまった患部から精製水でを使って剥がす。

それから大きめに切り取ったラップを貼って、ガーゼで押さえてから包帯を巻き始める。

「やりすぎでは?」

「バンドエイドは嫌なんでしょ? なら、派手にして同情かいなさいよ。包帯してる女をむやみに歩かせる奴が減るから」

「……結構腹黒なんですね」

「あら。初めて言われたわね」

「いつもなんて言われているんですか?」

「親父さん」

包帯を巻き終えて顔を上げると、なんとも言えない観月さんがいた。
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