君を好きな理由
そんな事を言い合いながら、お酒も進み。
ほろ酔いながらも、食べ終わった食器を片付けて洗い始める。

確かに片付けは苦手なようで、洗い終わったらしいザルだとかまな板だとか出しっぱなしだわ。


「先に風呂入りますね」

タオル片手の葛西さんを振り返りニヤリとする。

「どうぞどうぞ。私は少し酔いを冷ましてからにするー」

葛西さんの眉がひょいと上がって、それからまじまじと眺められた。

「酔いましたか?」

「焼酎だとそんなことないんだけど、日本酒は効いちゃうみたい」

ふわふわと言いながら、スポンジの泡をプクプクさせる。

「飲ませ過ぎましたか?」

「大丈夫ー。醒めるのも早いから」

たぶん。

「無理しないで下さいよ?」

「大丈夫だってば」

ひらひら手を振って、お風呂場へ消えていく葛西さんを見送った。


うん。まぁ。どちらかと言うと飲みすぎたよね。
冷酒って、最初はいいけど後になって回ってくるからタチが悪い。
ついつい、いつの間にか、限界点をさくっと突破しちゃったりしてるんだ。

ってか、首の動脈がバクバクしているのが解るなぁ。

洗い物を終わらせて、冷蔵庫から緑茶のペットボトルを見つけてグラスに注ぐ。

それを飲んでから、リビングにあったソファーに座った。

堅っ苦しい人かと思っていたけど、案外楽しい人でよかった。


実はなーんにも知らないよね。

華子の彼氏の友達で、秘書課の主任で、社長の息子で、相談役顧問の甥の息子。

これくらいの情報は知っていて当たり前。

社内のお婿さん投票では第一位……

顔もイケメン。背も高いけど、スリムな割りにひょろっとモヤシに見えないのは、きっと細いなりに筋肉質だからだな。

細マッチョは嫌いじゃない。

言動と行動が少し常識がないのはマイナスとしても、トータル的には好みの部類だよね。


葛西さんは我が儘……なのかな。

うん。我が儘だろうな。

でも、許容範囲内の我が儘加減。

もっと俺様になってもいい感じだけど……いや、たぶん我は強そうだけど、それを感じないのは、きっと口調のお陰だろうね。


ですます調な俺様は、あまりいない。

と言うか、その点だけ見れば、私の方が態度でかいって言うか。

華子には女王とか、親父とか、まぁ、好きに呼ばれているけど。

下僕をもった記憶はないし、所帯を構えた事実もないんだけど、気がつけばそんな風に言われていたわね。

呼ばれたところで気にする事も無いんだけど。




ぼんやりしていたら、いつの間にか目を閉じていて。

鳥の鳴く声に気がついて目を開いた。
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