君を好きな理由
なんなのよ。だいたい、少し失礼じゃない?
キスしてから、突き放すみたいにするとか。

男なら、こう……多少強引に、とか行かないわけ?
いつも強引なくせに。

いや。強引にされたら、私が突き放すか。

でもね。状況みて判断してほしかったかな。

嫌がっていないのに。

ぶつぶつ言いながら洗面所に向かい、シャワー付きの洗面台に、全自動洗濯機、それから脱衣籠を見て感心する。
何でも揃ってるのね。


滝みたいな音がする。


なんだろうとお風呂場へ続く曇りガラスの扉を開けて、あんぐりと口を開いた。


板張りの洗い場があって、ガラスでまた仕切られているけれど、その向こうには桧造りらしい湯船。
竹細工の囲いで、外の様子まではわからないけれど、今日も良い天気の青空。

……コテージに露天風呂って、どれたけ贅沢なわけ?

勢いよく流れ出しているお湯が、もうもうとした湯煙を上げて溢れているから、慌ててお湯を止めた。

そう言えば、昨日葛西さんがお風呂の事を“風情が”どーのって言っていたかもしれないけれど、これは風情ありすぎでしょう?

ありすぎだけど……


このお風呂は魅力的過ぎる。

手早く歯磨きと洗顔を終らせて、服を脱ぐとお風呂場に直行した。

髪を洗って、身体を洗って、濡れたままの髪をまとめると、ガラスの扉を開けた。

朝特有のひんやりした空気。
湯気が立ち上る湯船。
竹細工の囲いの外では小鳥が囀ずっている。


めちゃくちゃ温泉気分。


まさか、避暑地のコテージで、温泉気分になるなんて思ってもみなかった。


もう……なんて言うか。


やっぱり住む世界が違うよね。


「気紛れ……かしらね」

お湯に浸かりながら、足を伸ばす。

まぁ、葛西さんのまわりにいる女性って、実に可愛いんだもんオーラの人だらけだし、私はそれと比べると異色だと思える。

だいたい、好きだなんて四六時中言っている男の人って、経験上は軽い男と決めつけているけれど、磯村さん曰く“真面目な男”の葛西さん。

いや。でも、磯村さんは葛西さんの友達な訳で、友達の事なら通常悪くは言わないものよ。

真面目で柔和そうな顔して、いけしゃあしゃあと『結婚するけど、君が好きだから』なんて、2号さん話を持ちかけてくる奴もいるし。


……住む世界が違う人の考え方は、私には理解できないし。

それに、お見合いだって勧められているみたいだしね。
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