君を好きな理由
「……呆れた顔ですね」

「や。呆れたって言うか、感心したって言うか。男の子にしては、珍しいタイプの人だと思って」

普段の生真面目葛西さんから、牛たたきだとか、アボカドと海老のサンドイッチだのは想像もつかない。

「まぁ、そうなりますかね。でも、作らないだけで山本は海苔巻き上手ですよ」

「なにそれ。海苔巻きとかちゃんと巻くの難しいじゃない」

「やったことが?」


あるけど言わない。

ご飯を置きすぎて巻けなくなったとか、具を入れすぎてはちきれたとか、力入れすぎて、ごはんの棒切れが出来上がったりとか。

わかってる。
どうせ私には食事を作るセンスがない。


葛西さんはブラシを置き、ニッコリ微笑む。

その微笑みは人畜無害そうに見えるけど。

「……おにぎり、教えましょうか?」

「絶対に嫌!」

「まぁ、そう言わず」

「人間、出来ないこともあるって自覚するのも大切よ」

「諦めが早い。まぁ、いいですが」

「いいの?」

「いいです。さ、食事にしましょう」

そういいながら洗面所を押し出され、せっかくだからと、やっぱり今朝もテラスで美味しい朝御飯を食べた。


それからの数日は、暇があれば二人でリビングやテラスで本を読み。

たまに天気がいいからと誘われて、近くを散歩したりして過ごした。

しつこく言われたから試しに握ってみたお握りに、葛西さんが無言になったのはこの際ご愛嬌。



なんて言うか。


長期休暇を満喫したのは、久しぶりの気分だった。















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