君を好きな理由
「……信じられません。どうしてその見た目で“親父”なの」

「もしくは女王かしら」

「それなら納得致しました」

納得されても困るけどね?

「ちなみに“腹黒”はね。何か悪だくみをもっ ている、陰険で意地が悪いって意味だからね?」

「でも……」

「そりゃ、大した怪我でもないのに包帯して、私は怪我してるんで~♪ なら腹黒でしょうけどね」

ペンを持ってクルクル回しながら首を振る。

「火傷なら2度に近い裂傷よ。どちらかと言ったら皮膚科に行けってレベルなのよ。歩き回るのは止めておいた方が良いわ」

無言になった観月さんを眺め、利用者名簿に名前を記入。

「時期だから新しい靴でルンルンするのも良いけど……あー。靴擦れ人間増えるかな」

バンドエイドはあるけれど、パッド系も増やすかな。

なんて考えていたら、

「お医者さまみたいな事を言うんですね」

「……私は医者だけど」

呆気にとられて言ったら、ポカーンと口を開けたままの彼女。


若い子は何しても可愛いわねぇ。


さらさらと書類を書いていると、ガタンと椅子がひっくり返って、目を丸くした観月さんが立っていた。


「え。本当ですか? 医務室の人ってお医者様なんですか?」

「貴女……秘書課だろうけど、大まかに言ったら総務部秘書課でしょう? 知らなかったわけ?」

オールマイティーに動く華子や葛西さんを見ているから、感覚が麻痺しているのかしら。

あまり接点のない他部署ならともかく、総務部の系列である秘書課まで知らないとは思っても見なかった。

「ともかく観月さん、歩き方が悪いの直しなさいね」

「お、大きなお世話です!」

律儀に椅子を直してから医務室を出ていく後ろ姿を見送り、微かに手を振った。


それはよく言われるわね。
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