君を好きな理由
幸せなのかな?
*****




ゴールデンウィークも終わり、出勤に怠さを感じる社員がちらほら現れる頃。
いつものお昼休憩で、いつもの面子が集まる中でニッコリと微笑んだ。

「今日は高菜のお握りにしてみたの」

「え? 食べられますか?」

葛西さんの言葉に、目を細める。

見た目は綺麗な三角おにぎり。

「つべこべ言わずに食べなさい」

「……解りました」

アルミホイルのお握りを手渡し、同時にホイルを剥ぐと、同時にお握りにかぶりついた。

うん。まぁ、食べられなくはない。

塩気も何もないけど。

「……高菜が塩分高めだから、お塩は控えたんだけど、何か違うわね」

「やはり教えましょうか?」

やたら楽しそうに言うから、つんとそっぽを向く。

「絶対に嫌」

言った瞬間、磯村さんが首を傾げた。

「……仲良くなったなぁ、お前ら」

「もともと悪くないわよ」

「あれでかよ」

「え。だって、葛西さんの行動って迷惑行為以外のなにものでもないじゃないの」

「そうか?」

「そうよ。考えても見てよ、華子以外の女性が、四六時中“好きです”ってところ構わず言い出したら?」

磯村さんは黙ってお弁当を食べている華子を眺め頷いた。

「確かにいい迷惑だな」

「でしょう?」

「でも、それが葛西だろ。講義中にバラの花束プレゼントするって伝説になったくらいだ」

それはどうなんだ葛西さん。

でも、顧問のいる時に薔薇の花束くれた人であるのは間違いない。

「それに、女医さんに男の影でもありゃ、葛西でも、あんなに強気にならなかっただろう」

「…………」


なにそれ。私の対応のせい?

でも、そんな個人的な話をするようになったのって、結構最近の話じゃないの?

その間も、ガンガン来ていたように感じるんだけど……


「ところではるかさん、今晩の予定はいかがですか?」

葛西さんがおにぎりを食べ終えて、今度はあんパンの袋を開けながら首を傾げる。

「え。今晩の予定……」

明日は医師会の定例会に出なくちゃならないけど、今晩の予定は……

と、考えて、葛西さんを振り返った。

「葛西さんが予定を聞いてきた!」

驚いたら、とっても心外そうな顔をされる。

「……聞くでしょう。たぶん」

「……それでもたぶんなのね」

「それで、今夜は?」

「今夜は暇。明日は20時くらいまで忙しい」

「ならば、焼き鳥食べに行きましょう」

「焼き鳥? どうしたの急に」

「ヨッシーさんに、つきあえるようになったら報告しろと言われてまして」

……ヨッシー。

何を勝手なことを。

「ふられても来いとは言われてましたが」

えー……

「そんなん行き辛いわぁ。それに、彼らがいるのは金曜か土曜よ。思い付いたからって言わないの」

「では、今日は普通に夕食をご一緒しましょう」

「じゃ、金曜に焼き鳥食べに行くとして、どこに連れていってくれる?」

「俺が決めていいですか?」

「うん。今は特に何か食べたいって思い付かないし」

「まさかおにぎりひとつで終わらせるつもりじゃないでしょうね?」

いや。なんかご飯食べたって気分なんだもの。

「前々から思ってたけど、葛西さんてお母さんみたいよ?」

「俺は仕込みは出来ますが、産むことは出来ません」

言った瞬間、華子が盛大にお茶を吹き出した。


……葛西さんて、見た目のスマート差の割りに、言うことは下世話だよね。
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