君を好きな理由
ともかく、社員入口で待ち合わせをして、本を読みながら待っていたら、ツカツカとハイヒールの音。
私の目の前で止まったから、何だろうと思って顔を上げてから苦笑した。
「なんだ。観月結香か」
「ですから、フルネームで呼ぶのはやめていただけません?」
「解った。どうしたのユイユイ」
「なんですの。アバウトな呼び名は!」
「え? 可愛いじゃない。私なんてハルハルとは呼ばれないわよ?」
「ハルハルはお馬鹿さんのようです───……ではなく」
「なぁに?」
腕を組む観月さんに首を傾げた。
綺麗に整えられた眉が、怒ったようにつり上がっている。
私って、怒らせることしたかな?
思い当たるのは……
「水瀬さん、葛西さんとお付き合い始めたそうじゃないですか」
やっぱりそれか。
「興味なさそうな顔をして、どういうことなんですの?」
どういうことなんですと言われましても、まあまあ困るわけですが。
「葛西さんの粘り勝ちじゃないの?」
「そんなことはお付き合いする理由になりません! 葛西さんを好きでもないのにお付き合いするなんて失礼じゃありませんか!」
あら、まぁ。
「意外。かなり乙女なのね、ユイユイって」
今時、好きな者同士が付き合うって、奇跡的とまではいかないにしろ、かなり珍しい事だと思うわ。
自分の好きな人が、自分を好きになってくれたからお付き合い……なんて、希な事よ。
まあ、いっかなーで付き合う人も多いご時世。
……そりゃ、好きになったという訳じゃないから、失礼と言えば失礼なことかもしれない。
私だって、最初はそう思ったわよ。
まともに付き合える時間もないだろうし、向き合えるかも解らなかったし。
だけど、付き合っていくうちに情は移って行くものだし、そういう付き合いかたもアリだと思うんだけど。
それはやっぱり、考えてみると確かに失礼だと思うけれど。
……思ったけど、嫌いでもないのに拒否受け付けてくれなかったし。
でもさぁ。
「どちらにせよ、ユイユイには関係ないじゃない」
「関係あります! 私たちに抜け駆けは許されません」
徒党組んだ覚えはないわよ。
「付き合う為に、誰の許しが必要なわけ?」
「そ、それは……」
「付き合う為には、当人同士の同意があればいいんだけど、それってユイユイに言われる事じゃないと思うのよね」
「解ってます。そんなことは、解ってますが……」
「好きなら好きでいいと思うんだけどさ、行動の仕方がおかしいと思わない?」
「それも解っていますが、それがファン心理と言うものなのです!」
ファン心理と言われましても。
「他人に迷惑かけるファン心理は、害になるだけじゃない」
観月さんはカッと口を開きかけたので片手を上げて制止する。
「葛西さんを陰ながら見守るファン心理は、彼は別に芸能人って訳じゃないけど、ある意味で有名人だから解るわ」
「それでしたら」
「だけど、葛西さんと話をする異性に対して嫌がらせをして、その後葛西さんと会話も無くさせるファン心理は解らない」
「ファンとしては、異性と会話もなさって欲しくないんです!」
「それは貴女達の勝手な押し付けだわ。結果として、単に葛西さんを孤立させているんだけなんだけど、それは解っている?」
観月さんは口を閉じ、眉を潜めた。
「そんなつもりは……」
「逆の立場になってごらんなさいよ。昨日話をしていた人と話をしようと思ったら、話も出来ない、だけど陰では崇めるかのように見つめられるって、気持ち悪くない?」
「それじゃストー……」
言いかけて、また口を閉じた。
私の目の前で止まったから、何だろうと思って顔を上げてから苦笑した。
「なんだ。観月結香か」
「ですから、フルネームで呼ぶのはやめていただけません?」
「解った。どうしたのユイユイ」
「なんですの。アバウトな呼び名は!」
「え? 可愛いじゃない。私なんてハルハルとは呼ばれないわよ?」
「ハルハルはお馬鹿さんのようです───……ではなく」
「なぁに?」
腕を組む観月さんに首を傾げた。
綺麗に整えられた眉が、怒ったようにつり上がっている。
私って、怒らせることしたかな?
思い当たるのは……
「水瀬さん、葛西さんとお付き合い始めたそうじゃないですか」
やっぱりそれか。
「興味なさそうな顔をして、どういうことなんですの?」
どういうことなんですと言われましても、まあまあ困るわけですが。
「葛西さんの粘り勝ちじゃないの?」
「そんなことはお付き合いする理由になりません! 葛西さんを好きでもないのにお付き合いするなんて失礼じゃありませんか!」
あら、まぁ。
「意外。かなり乙女なのね、ユイユイって」
今時、好きな者同士が付き合うって、奇跡的とまではいかないにしろ、かなり珍しい事だと思うわ。
自分の好きな人が、自分を好きになってくれたからお付き合い……なんて、希な事よ。
まあ、いっかなーで付き合う人も多いご時世。
……そりゃ、好きになったという訳じゃないから、失礼と言えば失礼なことかもしれない。
私だって、最初はそう思ったわよ。
まともに付き合える時間もないだろうし、向き合えるかも解らなかったし。
だけど、付き合っていくうちに情は移って行くものだし、そういう付き合いかたもアリだと思うんだけど。
それはやっぱり、考えてみると確かに失礼だと思うけれど。
……思ったけど、嫌いでもないのに拒否受け付けてくれなかったし。
でもさぁ。
「どちらにせよ、ユイユイには関係ないじゃない」
「関係あります! 私たちに抜け駆けは許されません」
徒党組んだ覚えはないわよ。
「付き合う為に、誰の許しが必要なわけ?」
「そ、それは……」
「付き合う為には、当人同士の同意があればいいんだけど、それってユイユイに言われる事じゃないと思うのよね」
「解ってます。そんなことは、解ってますが……」
「好きなら好きでいいと思うんだけどさ、行動の仕方がおかしいと思わない?」
「それも解っていますが、それがファン心理と言うものなのです!」
ファン心理と言われましても。
「他人に迷惑かけるファン心理は、害になるだけじゃない」
観月さんはカッと口を開きかけたので片手を上げて制止する。
「葛西さんを陰ながら見守るファン心理は、彼は別に芸能人って訳じゃないけど、ある意味で有名人だから解るわ」
「それでしたら」
「だけど、葛西さんと話をする異性に対して嫌がらせをして、その後葛西さんと会話も無くさせるファン心理は解らない」
「ファンとしては、異性と会話もなさって欲しくないんです!」
「それは貴女達の勝手な押し付けだわ。結果として、単に葛西さんを孤立させているんだけなんだけど、それは解っている?」
観月さんは口を閉じ、眉を潜めた。
「そんなつもりは……」
「逆の立場になってごらんなさいよ。昨日話をしていた人と話をしようと思ったら、話も出来ない、だけど陰では崇めるかのように見つめられるって、気持ち悪くない?」
「それじゃストー……」
言いかけて、また口を閉じた。