君を好きな理由
あああああ!

もう!

調子が狂う!

「葛西さ……博哉!」

「はい?」

「言いたいことがあるならハッキリ言いなさいよ、貴方って遠回りして変な方向に向かっていくんだから!」

博哉はむっとしたように一瞬唇を引き締め、それからいきなり笑い始めた。

何よ、なんなのよ。

何もおかしな事は言っていないから。

おかしな事を言っているのは、むしろそっちだから。

思いきり笑った後、深呼吸をしてしばらくしてから博哉は頷いた。


「やっと本調子になったようで」

「は……?」

「いや。付き合い初めてから、どうも遠慮しているように見えましたから。どうしようかと思っていました」

「……そう?」

そうかしらね。

と言うか、調子が狂いっぱなしだったのは確かだけど。

「まぁ、今日の出来事を見て……俺がどう思ったかハッキリと言えば」

「うん?」

「観月さんは少なからず貴女のライバルになるはずですので、仲良く話をしていないでください、と言う感じでしょうか?」

「はあ?」

「俺を共有しないでくださいよ」

「え?」


博哉はニヤリと笑い、それからゆっくりと屈んで顔を覗き込まれる。


「俺は貴女を独占するので、貴女も俺を独占してください」

「…………」


あ……そう。貴方も独占欲が強いタイプなのね。

それはそれで納得だけど、それを歩きながら、通行人もたくさんいる往来で堂々と言う事かしら?

そう言えば、前に誰かに気をつけるように言われていたかもしれないけれど、何となく聞き流して……


だけど。


「じゃ、甘えてもいいの?」

「望むところですね」

「……って、素直に甘えられるわけがないでしょうが!」

「天の邪鬼ですねー」

「妙齢の女性心理は複雑なのよ。覚えなさい」

「忘れます」

「かっわいくないわね!」

「それこそ、この歳で可愛くしていたら怖いでしょう」

「山本さん、見た目は可愛いじゃない」

「見た目は、と言うところが、らしいですよね」

「百鬼夜行の企画室が、普通なわけないじゃない」

「百鬼夜行はいいですねぇ」

笑いながら、博哉はいきなり肩を抱き、方向を変えると、目の前の扉を開いた。
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