君を好きな理由
そんな軽口も“付き合って”いるからだろうな。

まぁ、気楽に誘うにしては博哉は礼儀正しすぎるし、品行方正という言葉が似合い過ぎて、私がいつも行くようなお店に行くのは……やっぱり勇気がいると言うか。

それでも、馴染むのも早いのか。
焼き鳥屋さんでは、すぐに馴染んでくれたよね。
きっと、ある程度の柔軟性はあるんだろうな。

言葉使い以外は。

焼き鳥屋さんの次には立ち飲みに行くことに決めて、その次にはどこに行くか話しながら、運ばれてきた料理を食べて微笑む。

さすが、と言うか。

こういうお店でも、たまに料理が不味い店って言うのがあるけれど、料理もワインもとても美味しい。

高いから旨いだろうの時代でもないけれど、ここは本当に美味しいな。

食べ物が美味しいと感じるのは、幸せな事よね。

博哉も寛いで話しているから、こちらも寛いだまま会話と食事が進み、気がつけばすでにワインを一本空けていて、口髭紳士が近寄ってくる。


「ハウスワインですが、おすすめの赤ワインがございます。お持ちいたしましょうか?」

優しい微笑みが私に向けられ、顔を赤らめた。

確かに、殆ど私が飲んでいるものね。
でも、飲み過ぎはよろしくないと思うかも……


「ありがとうございます。でも、明日も早いので……」

「では、何か軽いものをお持ちいたしましょう」

離れていく彼を見送って、それから小さく吹き出した博哉を見る。


「貴方も飲みなさいよね!」

「いえ。この間、醜態さらしたばかりですから遠慮しましょう。それに、次にまたヨッシーさんに飲まされそうですし」

「それは言えてる。何だか気に入られちゃったみたいね」

「はるかもですよ」

私?

不思議そうな顔をすると、博哉は店内を見回す。

「こういうレストランでは、一見の客に優劣をつけることはあまりありません。それでもテーブルに付く人間は、客にランクをつけるモノです」

「ランク?」

「レストランですからね。気持ちよく食べて飲んでいる人に対して、嬉しくないはずがありません。はるかは篠田さんにもてなされてましたよ、今」

「篠田さんて、あの英国紳士風の人?」

「ああ。確かに英国紳士ですね。篠田さんは」

ああ。そっか。
あれはおもてなしだったんだ。

「彼がハウスワインを勧める人を見たのは初めてですよ」

「美味しいの?」

「この店の特注品ですよ。メニューにも載ってません」

「…………」

それはまた、過大なおもてなしを受けそうになったものだ。

「気になるけどやめておく。お財布が心配になる」

「俺の財布の心配は無用ですよ」

「…………」

この坊っちゃんめ。
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