君を好きな理由
「たまに貴女は考えている事が筒抜けになりますね」

えー……と。

「ごめん。気を付ける」

「いや。まぁ……事実ですので、変えようがありませんが」

博哉は呟いて、それから指先で眼鏡を直した。

「ここはデザートも美味しいですよ。チョコレートタルトがお勧めです」

いきなり話題が変わったけれど、今の一瞬で彼が“いろんなモノ”を飲み込んだのが解る。

空気を読むのか読まないのか、全くこの人は解らない。

だけれど……

今はそれに甘えてしまおうか。

「チョコレートがお勧め?」

「確か聞いた話では、カカオ豆の焙煎や配合から作るはずです」

「え。コーヒー豆みたいなの?」

「え?」

ん?

「チョコレートは、カカオ豆から作られているのは知ってますよね?」

「…………」

うん。これは解った。

「今、軽く馬鹿にしたでしょ」

「あ。いえ。まぁ、板チョコで十分美味しいですよね?」

「はぐらかしても解るんだから。どうせ私は作る方には向いてません」

「大丈夫ですよ。作るのは俺に任せておけばいいんです」

「チョコレートも作ってくれるの?」

「一からは二度とやりません。難しくて無理です」


呆れた……

料理が趣味とは聞いていたけど、デザートまで作るとは。

家庭的な博哉って、確かに旅行先で見ていたけど……
クッキー焼いてる博哉を想像する事になるとは思っても見なかったわ。

「リンゴのコンポートが食べたい」

「いいでしょう。作って差し上げます」

とても胸を張って言うから可笑しい。

「何だか偉そうね」

笑いながら言うと頷かれた。

「たまには花を持たせて頂かなくては」

「私は別に虐げてもいないでしょう」

「さぁ、それはどうでしょうか」

言い合っているうちに、篠田さんがキールを持ってきて、博哉がデザートのお勧めを聞いている。

結局、チョコレートタルトとチョコレートムースを頼んで、お互いに一口づつ交換しながら食べた。
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