君を好きな理由
「博哉って、甘いものが好きなのね」

「そうですね。どちらかと言うと好きです」

ニコニコとさりげなく言っているから、ニコニコと首を傾げる。

「チョコレートが好き?」

「甘いものでしたら大体は。たまに辛いものも食べます」

「辛いもの……?」

えーと……

どうして私をじっと見つめるのかな。


うん。

博哉ってたまに“食べ物”に例えてくるよね。


「……辛い?」

「そうですね。シャンパンのように」

「……酔ってしまいそうね」

「それもまたいいですね。ぜひとも酔わせて溺れさせてください」

「…………」


笑顔のままで固まった。


あんたは何てところから、何て口説き文句が出てくるんだ!


「わ、悪酔いするわよ!」

ぶつぶつ言ってから、チョコレートムースを口に運ぶ。

やっぱり気障だわ。
かなりの気障男だわ。

そうよね。考えて見なくても、今どきプレゼントに薔薇の花束を持ってくるような男が、気障じゃないわけがない。

参ったわ。

一見クールで実はホットな男は嫌いじゃない。

どちらかと言うと好きな部類だわ。


だけど困ったな。

深入りするつもりは無いんだけど。

きっと付き合ってみれば、勝手に幻滅して離れていくと思っていたのに。


今までの、大体の男がそうだったみたいに。


見た目だけで近寄ってくる男は、話すだけでも離れていったし。

付き合った男たちも、あまりに私が女らしい事を出来ないから、呆れて離れていった。

唯一、大丈夫だと思った男も、二号さんでも平気だろうと思われていた訳で……

確かに、付き合った動機は理由もなくて、かなり博哉にとっては失礼な話だけど。


だけど、どうしよう。


博哉は真剣なのかな。

真剣なんだろうな。

真面目だから、遊びでと言う感じじゃないだろうと薄々気づいていたけど、ここまで口説かれるとちょっと困る。


でも、相手は社長の息子よ。

どんなにフランクだろうと、どんなに変わった人間だろうと、それは事実であって。

……そういう人達には、私たち以上にややこしいしがらみが多いのは知ってるわ。


知っているけど。


解らない。


解らないけど、どうかしたいと……私は思っているかしら。


失敗したかなぁ。


考えていたら、博哉の表情が何か見つけたように、一瞬固くなったのに気がついた。


「どうかした?」

「あ。いえ。何でもないです」

否定はしたけれど、少し様子が変わったのは解る。

彼の見た方向は階段の方……

振り向いて、私も固まった。
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