君を好きな理由
白いワンピースにピンクボレロ姿の可愛らしい女性。
エスコートする様に彼女の腰を支え、階段を上っていくダークスーツの男性。

その横顔には見覚えがあった。

それでも、素知らぬふりをして博哉に向き直る。


「……知り合い?」

「まぁ。世間は狭いと言うことでしょう。父の集まりに付いて行くと、顔を合わせるメンバーに代わり映えはないですから」

「へぇ?」

何かしらのパーティみたいなものかしら。

色んな世界があるわ。

「個人的に悪い人ではないのですが、ご家族の方には……あまりお近づきにはなりたくないですね」

「貴方がそんな風に言うのは珍しいわね?」

「元華族の元財閥と言われても、あの家は別格と申しましょうか」

それはとてもよく知ってるわ。

母親はどこそこの家の血筋を引く人間にこだわりがあるみたいで、一般人は“どこぞの馬の骨”だと思っているし。
父親は外に出て仕事をするのは男の領分で、女は家に居て大人しくしているモノだと固く信じている。

その息子は……良く言うなら人が良く、悪く言えばことなかれ主義の優柔不断よね。

よーく知っている。

そのくせ自分の思った事には素直で、自分で決断もしないくせに要求ばかりを人に押し付けてくる男よ。


「何かされた?」

「まぁ、遠回しな嫌みでしょうか。うちは成金ですからね」

その言葉に苦笑する。

うちの会社の社長が成金なら、あっちは家柄だけの貧乏性だろうに。

「まぁ、悪口にしかなりませんから、やめておきましょう」

「そうね。せっかく美味しくいただけたんだたもの。よしておきましょう」

微笑んで、それから紅茶を頂いた。

「あちらに気づかれる前に、店を出ても良いですか?」

「いいわよ」

それは願っても無いことだわ。

まさか連れがいるのに、私に声をかけてくることはないと思うけれど、それでも会いたい相手じゃない。


篠田さんがそっと近づいてきたので会計を済ませると、お礼を言ってから席を立つ。


会うのは久しぶりだわ。

別れた男に会うなんて、本当に世間は狭い。
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