君を好きな理由
親父さんや女王はまだ良い方。

冷血漢だとか、踏みにじる女だとか、まぁ、色々と言われる事もあるわね。

まぁ、そういう事を陰で言う人間は放っておいていいし、面と向かって言うなら……それはそれでいい。

気にしていても始まらないし、気にしたところで、仲のそんなに良くない人の言うことまで責任は持てないし。

だいたい、仲のよくない人が言うことは単なる陰口であって、言っている本人ですら無責任に言っているだけなのだから、こっちが責任を持つ必要もないんだけれど。

気にする人はどこまでも気にするのも知っている。

ストレス社会だもの。
ちょっとしたきっかけ、ちょっとした食い違いで、歯車が狂うことなんてしょっちゅうで……

ノックの音に顔を上げる。

「どうぞ?」

入ってきた人物に取り敢えず笑顔。

「あの……少し休んでもいいですか?」

真っ青な顔色と、少し泣いたような目を認めて立ち上がる。

「奥のベットを使って」

彼も医務室の常連。

上司とうまくいっていないらしく、限界がくると体調にまで影響して、吐いたり倒れたり。

大人しくベットに向かい横になる、それを確認してからカーテンを引いた。

……書類は後回しだな。

利用者リストに彼の名前と時間を書いて、ファイルを閉じた。

メンタルヘルスは勉強中。

確かに、学生時代から勉強はしてきたけれど、実地で役に立つときもあれば、全く役に立たない事もある。

性格も思考も全く違う人間相手なんだから、教科書通りにいかないのが当たり前。

……勉強が出来ても、それが通じないのが今の社会よね。

だから、その壁にぶち当たる人間も多い。

そんな事を考えてながら読む本は頭に入るはずもなく、しばらくしてから少しだけ顔色の良くなった彼は出ていった。

布団カバーと、シーツを交換して、枕カバーに手をかけたら見つけた濡れた後。

男の人も辛いときは辛いわね。

……話をしてくれたらいいのに。

そんな事を思っていたら、またノックの音。


勤務中は忙しない。
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