君を好きな理由
そんな事をしながら、部長クラスの胃痛の相談を受けていると、時間はあっと言う間に過ぎて定時になる。

重役クラスの階は、明日に回そう。

今日の医師会は、簡単だといいなぁ。

パソコンの電源を落とし、個人情報の入ったメモリーカードとファイルを金庫にしまって施錠。

空気清浄器と加湿器、ポットのコンセントを抜いてから、医務室の鍵をかける。

よし。頑張るかな。

そう言えば、博哉が迎えに来るとか言っていたけど、場所教えてないわ。

まぁいいか。

そんな風に思いながら、医師会に参加した。




相変わらずのまったりムードで医師会は流れていく。
議長の声って眠くなる……と言うか、安らげる。

いや、安らいじゃいけないんだけど、つい眠くなる。

頑張って目を開いていたら、隣からフリスクの差し入れが来た。

確か……i大付属の先生……だったかな。

医師会に参加する先生って年配の先生が多いけど、彼は珍しく30代の半ばだったはず。


「ありがとうございます」

「寝不足ですか?」

「あ、いえ。議長の声につい……」

「ああ。元は精神科の先生だし。優しい声しているよね」

ふんわり笑う顔が、議長に向かう。

「柔らかくていい感じです……私はパキパキ話してしまうから憧れますね」

「あー……企業産業医? なら、メンタル中心になるからねぇ。僕は心療内科だから、何かあれば相談に乗るよ」

「え。嬉しいです。今、勉強中なんです。名刺お渡しします」

こそこそと名刺を交換して名前を確認する。

牧野 崇さん。ね。

名刺をしまうと、牧野さんはにこやかに首を傾げる。

「よければ、今夜。若手達集めて飲み会するけど、来ますか?」

「あ。いえ……」

若手の飲み会イコール合コン的な図式が出来上がるなぁ。

「迎えが来ますので、遠慮致します」

ニコリと返すと、

「なんだ、残念」

それだけ言って、牧野さんは議長に集中した。

まぁ、社交辞令ね。

社交辞令なら、バッキバキに返事するわよ。

「本当に残念」

……念押し?

まぁ、いいか。聞こえないフリをしよう。
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